2002年1月16日

警察庁交通局交通企画課法令係 御中

DPI(障害者インターナショナル)
日本会議 山 田  昭 義
東京都千代田区神田駿河台3-2-11
総評会館内
TEL:03-5256-5365 FAX:03-5256-0414

「道路交通法施行令の一部を改正する政令試案等」に対する意見

 DPI(障害者インターナショナル)は、すべての障害者の権利と自立生活の確立をめざして活動している団体であり、国際障害者年の1981年に障害をもつ当事者の「われら自身の声」をスローガンとして結成されました。現在150ケ国をこえる国々にDPIの国内会議が結成され、障害当事者による国際的な協力関係づくりに向けて努力を重ねており、国連においては障害者関連の諮問団体として認知されています。
 DPI日本会議は、1986年に日本における国内会議として結成されて以後、障害者の完全参加と平等、人権の確立にむけて必要な諸活動を展開しています。

 2001年6月、道路交通法が改正されました。それに伴い、同年12月には警察庁交通局から「道路交通法施行令の一部を改正する政令試案等」(以下、「試案」と略)が公表されました。
 本試案について、障害や病気によって社会生活上の不利益をこうむる状況におかれている障害当事者の社会参加と人権を確立する立場からDPI日本会議としての意見を述べます。


1.本試案は、欠格条項の見直しに関する「具体的対処方針」から大きく逸脱しています。

 政府が公式に決定している「欠格条項に係る具体的対処方針」(当時の総理府障害者施策推進本部99年8月)には、その一つとして「障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正」が明記され、その考え方の中には「障害名や病名を特定しない」ということが示されています。
 しかし、改正された道路交通法の場合、法律条文において、「幻覚の症状を伴う精神病」「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気」「自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気」等は、試験に合格しても免許を与えないことがあるとされ、臨時適性検査も、受検しない場合は免許の取消し・停止等ができるものへと制限が一層強化されたという問題がはらんでいます。
 こうした法律改正に基づいて運用事項を定める施行令に係る本試案では、「素案」に盛り込まれていた「精神分裂病」「てんかん」「失神」「低血糖症」「そううつ病」「睡眠障害」に加えて、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」「脳卒中」関係が追加され、「自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作に支障を及ぼすおそれがある」病気にかかっている場合については、今後も「試案に明示している病気以外についても、交通の安全の確保の観点から、免許の拒否等を行う」としています。
 本試案では、「自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれ」のない「軽微な」状態であれば、免許の保留・停止・取り消し等はしないとされていますが、「軽微な」状態そのものが曖昧な基準であり、医者が「おそれがない」とはっきり診断できる状態は、実際には例外的であり、結果としてほんのわずかになってしまう可能性が強くあります。
実質的に大多数の当事者がその網にかかってしまい、障害名や病名を特定する欠格条項によって、当事者が一律に排除されてきたことの問題性が一層浮き彫りになることにつながる恐れがあります。
 本試案が「相対的欠格事由」の枠内にとどまっており、本試案のままでは、結果と
して「絶対的欠格事由」に非常に近い運用実態になっていく危険性があることを再認識する必要があります。
「病名の特定」が真に必要なのかどうか、新しい差別、偏見を生み助長することつながりかねないという観点から、再度の見直しを求めます。

2.免許申請時や免許更新時の病状等申告制度の導入は実施しないことを求めます。

 本試案では、免許申請時又は更新申請時に、プライバシー保護の観点から申請書に具体的な病名等の記載は求めないとしています。しかし、「病気等ごとの具体的な運用基準」に該当する症状等を有しているかどうかを把握するために「病気を原因として又は原因不明により、意識を失ったことがある方」等の4項目の設問に回答しなければならないとしており、その「回答内容」が不明な場合は、申請者に対して病名を聞き、本試案の「基準」にそって臨時適正検査あるいは主治医の診断書の提出を求めることになっており、最終的には病名の自己告知と同じ結果になる可能性があります。
 試案において「具体的な病名等の記載は求めない」としたのは、申請者のプライバシー保護の観点からということは評価できますが、「回答内容」が不明な場合の取り扱いによっては、結果としてプライバシーの侵害につながる危険性があります。
 その結果、当事者にとっては、病名を自分で告知することが、現状の社会的差別・偏見を背景に様々な制限を課せられてしまうことにつながるのではないかという不安感をもつことになり、申請時の設問に対して本当の回答ができなくなってしまうことにもなります。このことは、障害や病気を隠して運転免許資格を取得せざるを得ないという、従来の絶対的欠格事由によって助長されてきた現実の差別、偏見をさらに今後も繰り返すことになることを意味します。
 こうした弊害を踏まえ、病状等の申告制度の導入は撤回するべきです。
 また、同様な理由およびプライバシー保護の観点から、申告に関する罰則規定は設けるべきではないことは言うまでもありません。
 
3 本人の希望と可能性を広げるための相談機関を設置し、具体的基準については、 免許の拒否や取消しに直結しやすい現状の試案から、運転行為の拡大と、状態に着目した最小限の制限にすることが必要です。

 国会審議においても、障害や病気等を理由とする排除や判定プロセスへの危惧から議論され、「補助手段の開発」や「適性試験や検査が欠格条項に代わる事実上の障壁とならないように、運転免許を取得できるよう見直しを」(抄)等をあげた附帯決議が採択されています。その趣旨を踏まえて、障害や病気がある人のニーズを汲み可能性を広げるように、補助手段の開発と活用や支援策を充実させることが必要です。
 そのためには、本試案で取り上げられている障害や病気があっても、どのようにすれば運転免許の取得が可能なのかということについて、初期段階から当事者からの相談を受付ける相談機関を設置することが優先課題であるべきです。

 この相談機関は、下記の要件に基づいて設置し、相談機関の役割とその要件を施行令の改正の中に明記することが必要です。

(1)相談機関には、当事者団体とのネットワークを活用し、専門的な知識とともに当事者のニーズと実態を把握できている相談員を配置すること。

(2)運転免許の停止処分等によって、一律にすべての運転を禁止するのではなく、運転目的(自家用、人員輸送業務、運送業務など)、または運転道路種と運転距離、運転時間帯、服薬遵守など、その運転に具体的に支障のある程度に応じて、当事者の状態と意向を最大限に尊重し、停止処分の内容と運転が可能な範囲を弾力的に決められるようにすること。

 このような適切な配慮を行うことによって、日頃から制限されがちな障害者の社会参加に不可欠な移動と交通アクセスに関する権利が確実に保障されることになると言えます。

以上

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