衆議院

第151回

内閣委員会

平成十三年五月二十三日(水曜日) 第13号

出席委員
   委員長 横路 孝弘君
   理事 逢沢 一郎君 理事 小野 晋也君
   理事 古賀 正浩君 理事 西川 公也君
   理事 島   聡君 理事 中沢 健次君
   理事 河合 正智君 理事 塩田  晋君
      岩崎 忠夫君    亀井 久興君
      川崎 二郎君    小泉 龍司君
      阪上 善秀君    実川 幸夫君
      竹本 直一君    谷川 和穗君
      近岡理一郎君    三ッ林隆志君
      山本 幸三君    渡辺 具能君
      渡辺 博道君    井上 和雄君
      石毛えい子君    大畠 章宏君
      奥田  建君    細川 律夫君
      山花 郁夫君    山元  勉君
      太田 昭宏君    松本 善明君
      北川れん子君
    …………………………………
   国務大臣
   (経済財政政策担当大臣) 竹中 平蔵君
   内閣府副大臣       松下 忠洋君
   内閣府大臣政務官     阪上 善秀君
   内閣府大臣政務官     渡辺 博道君
   参考人
   (日本大学名誉教授)   長江 啓泰君
   参考人
   (全国交通事故遺族の会会
   長)           井手  渉君
   参考人
   (社団法人日本てんかん協
   会常務理事)       福井 典子君
   内閣委員会専門員     新倉 紀一君
    ―――――――――――――
委員の異動
五月二十三日
 辞任         補欠選任
  小西  哲君     小泉 龍司君
  宮澤 喜一君     山本 幸三君
  大畠 章宏君     奥田  建君
同日
 辞任         補欠選任
  小泉 龍司君     小西  哲君
  山本 幸三君     竹本 直一君
  奥田  建君     大畠 章宏君
同日
 辞任         補欠選任
  竹本 直一君     宮澤 喜一君
    ―――――――――――――
五月二十三日
 中小自営業の家族従業者等に対する施策を含めた男女共同参画基本計画の策定に関する請願(塩川鉄也君紹介)(第二〇二九号)は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出第五〇号)
 内閣の重要政策に関する件
 国民生活の安定及び向上に関する件

     ――――◇―――――
   午後零時九分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時三分開議
○横路委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 内閣提出、道路交通法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案審査のため、参考人として、日本大学名誉教授長江啓泰さん、全国交通事故遺族の会会長井手渉さん、社団法人日本てんかん協会常務理事福井典子さん、以上三名の方々に御意見を承ることにいたしております。
 この際、参考人の皆さんに一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ、本委員会でただいま審議中の道路交通法の一部を改正する法律案について御意見をお伺いすることにいたしましたところ、御出席をいただきましたこと、心から感謝を申し上げたいと思います。参考人の皆さんにおきましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をいただければ、このように存じております。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 長江参考人、井手参考人、福井参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、参考人の方々に申し上げますが、御発言の際
にはその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、御了承いただきたいと思います。
 それでは、長江参考人にお願いいたします。
○長江参考人 日本大学の長江でございます。
 私、結論から申し上げますと、現在提出中の法律案が成立することを望んでおります。以下、その理由あるいは考え方について意見を述べさせていただきます。
 車社会と言われて久しい時間がたちますし、国民皆免許時代を迎えたというふうに言っていいと思います。そういうことは、運転そのものが国民生活と非常に密着をしている、車というものが生活の中で欠かせないものになってきたというふうになっていると思い
ます。
 それでは、運転ということをどう考えるのか。これは余りそのことが書かれておりませんが、運転というものを一つのシステムというふうに考えると、多分運転の中身がよくわかるのではないだろうか。システムという言葉は非常に多く使われますけれども、具体的にシステムを中学生の方にわかりやすく説明しようとするとなかなか難しいということなんですが、システムということを考えるときに、まず、例えば運転でいいますと、運転をするためには何があれば運転ということが成立するかということをひとつ考えていただきますと、まず、運転をする人というのが一つの要素としてあるだろう。それから、運転をする車というものがシステムの要素として一つあるだろう。
 人と車があれば運転ができるという話ではありませんで、路上に出ますと、歩行者だとかあるいは自転車だとかほかの車だとか、また道路にしましても、雨が降っているときと乾いているときと雪が降っているときとでそれぞれ変わります。そういう意味で言いますと、それらを取り巻く道路・環境というものが一つのまた要素になるだろうと思います。 このシステムというものを考えますと、安全運転を確保するためにはシステムが全体としてよくならなければいけないわけです。それにはどうするかといいますと、それを構成している要素、具体的に、私は機械工学なものですから、機械工学でシステムという言葉の定義は、同一目的に向かって機能し合う要素の集合体、これで大体技術屋はああそういうものかとわかるわけですが、すべてがある一つの目的に向かってお互いに機能し合うもの。そういう中で、じゃ、人、車、道路・環境のどれをよくすれば一番よくなるんだろうかといいますと、システムの原則論としますと、一番弱いところで全体の性能なり限界というものが決まってしまう。
 これは非常に卑近な例で、そんなばかなことを言うなと言われるかもわかりませんが、例えば物を引き上げるときに、一本のひもで物を引き上げようとしますと、そのひもを、何種類かの材質の異なるひもを結びつけてしたとします。そうしますと、それが紙のひものところで切れても、あるいはビニールのひものところで切れても、一番弱いところでぷつっと切れますと、もう物を持ち上げるという機能はなくなります。
それからもう一つはひもの結び方です。構成している要素を結ぶものですが、これがぐあいが悪いとまたシステムとしては機能しない、こういうふうなことに実はなるわけです。
 そういうことで、最も低い要素が全体の限界を決めるということになります。したがって、よりよいシステムというものをつくり上げるためには、それを構成する要素のバランスのとれた性能というものを確保しなければいけない。例えば、車だけをよくしてもだめだ。道路・環境だけをよくしてもだめだ。運転をする人というものも高めなければいけない。その間のバランスというものが非常に大事になるだろうと思います。
 一方、運転の主体というのを考えますと、御案内のとおり、ITS、高度道路交通システムというものが二〇一〇年から実際に実用化しようというふうに動いておりますけれども、そういうものが、あるいは高速道路の自動運転というようなものが実現したとしても、最終的に、そこから離脱をするあるいは自分のうちへ帰るというような運転の主体というのはやはり人であります。したがって、安全運転を進めるためには質の高いドライバーが不可欠であります。このような意味合いから、より多くのよきドライバーをはぐくむ
ための動機づけとなる奨励策というものが当然必要だろうと思います。現在提出されております法律案の中の運転免許証の更新を受ける者の負担を軽減するための規定の整備というのは、多分これに当たるだろうと私は解釈をしております。
 また、システムの中で、人を除くその他の構成要素であります車とか道路・環境というのは、科学技術と非常に密接な関係があります。特に、最近、その技術進歩というのは車の操作を非常に簡単にし、しかも、運転をしている方々がどういうことをやっているかといいますと、通常は自動車教習所で認知、判断、操作ということですが、最近は、認知、それから予測、決断、操作というものがドライバーのいわゆる作業の内容である、こういうふうに言われております。そういうもののミスを補完する一種の、飛行機なんかでよく使われますフェールセーフというのがありますが、たとえドライバーがミスをしても、ほかの者がそれを手助けして危険な状態に陥らないようにしよう、そういう技術開発というのがだんだん実用化に向かっております。
 ところが、先ほど国民皆免許と申し上げましたが、運転の大衆化に伴いまして、実際に路上で運転している中で、いわば模範生と言われるような方たちを同時にはぐくんでいかなきゃいけないだろう。そういうことを図るために、第二種免許に関する規定の整備ということが多分これに当たるんだろうと思います。
 しかし、陸上交通における事故の要因というのは、いろいろな研究がありますが、その九〇%以上が人的要因によるものであるというふうに言われております。人である運転者の特性とか、あるいは人間というのは行動変化がどんなメカニズムで起きるのか、まだこれは、車だとかあるいは道路・環境に比べますと科学的に十分な解明がなされておりません。特に、運転にかかわる正確な適性検査も確立されていない状態にあります。
 しかし、生活を維持するためには、あるいは生きるあかしとしての運転ということ、車の好きな方はそういうふうにおっしゃいますし、生活上やむにやまれず、車がないと生活ができないという方もいらっしゃると思いますが、そういう観点からは、現状で可能な資格、教育のあり方を見直すということから、多分、この一つの例として、高齢の運転者の保護に関する規定の整備ということが提案されたんだろうと思いますし、同時に、欠格事由、運転免許証が取得できないという方の問題もそこに入っているのかと思います。
 現実には大変事故が多くなっております。一般の方は、死者数が一万人を切って九千人に近づくというようなことを言っておられますけれども、人というのはやはり弱い面を持っていることも否めません。事故発生時あるいは検問などがありますと、まず免許証を出して、そして警察官の方がそれを書き取る、そんなことは早くしてくれればいいのにと思うのですが、そういうようなこともあります。あるいは、そういうことが近づきますと、何でスピード違反でこんなに長い時間をとらせるのかというようなことがあって、それ
が、逆に言うと、交通警察というものに対する反感を買っているかもしれません。
 そんなことを考えますと、心に決めて、そういうことをしてはいけないんだということを知ってもらう、あるいは思い起こしてもらうという意味から、免許証の電磁的方法による記録に関する規定の整備あるいは罰則に関する規定の整備、それからその他というところに書いてあります内容がそれに当たるんだと思います。
 さらに、車社会というのは、車優先社会では必ずしもありません。これは釈迦に説法かもわかりませんが、道路交通法の法の精神を説きますと、歩行者にも自動車にもそれぞれ優先権を与えているわけですが、同じ道路を共有する歩行者やほかの車に対する思いや
りも非常に重要であります。同時に、限られた道路を有効活用するための情報活用のあり方も、現在問題になっていますITの進歩に合わせて見直すことが必要になるだろうと思います。これらのことを具体化するための法律が、その他の交通安全及び円滑を図るための規定整備であるというふうに考えております。
 これらの見直しを進めて、よりよい交通社会の構築に向けて明確な道しるべができることを願っております。同時に、成立の暁には、積極的に広報啓発活動を展開していただいて、効果を発揮する方策を実行されますことを希望しております。
 罰則の強化ということも必要ですが、同時に、二度と事故、違反を起こさないという問題意識、あるいは自分の心の規範というようなこと、こういうようなものをどのようにそれぞれ一人一人の方たちが心の中に植えつけていただくかというような意味の働きかけ、これは一つには教育もあるかもわかりませんが、いい社会をつくる意味ではそういうようなことにもぜひ力を入れていただきたい、こんなふうに希望をしております。
 以上でございます。

○横路委員長 ありがとうございました。
 次に、井手参考人にお願いいたします。
○井手参考人 本日は、内閣委員会に参考人としてお招きいただき、発言の機会を与えていただいたことに心からお礼申し上げます。私は、千葉県に在住し、耳鼻咽喉科医として働いている井手と申します。
 平成二年の十一月に当時高校三年生の娘が交通死したことを契機に、平成三年四月に全国交通事故遺族の会という自助組織を設立しまして、昨年二月に東京日本橋に事務所を開設し、被害者の救済と交通事故の撲滅を目的に活動してまいりました。
 このたびの道路交通法改正案を拝見いたしますと、一つは規制緩和、二つは障害者の人権、三つ目は罰則の強化ということが基本になっているように思われます。
 道路交通法の目的の第一条に、「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。」と明記されております。したがって、道路交通法は、国民の生命を交通事故から守ることが堅持されていなければならない法律だと思っております。最近は、規制緩和の流れの中でいろいろな規制が緩和されようとしております。規制緩和というものは、市場原理によって規制を取り払い、国民の生活が豊かになることが目的であります。しかし、規制緩和によって人命が死傷され、安全が脅かされるとすれば、道路交通法の目的に反することになります。
 まず、免許更新期間延長の問題です。
 免許更新は、ドライバーの安全に対する自覚と運転適性の定期的なチェックを兼ねた講習をするための唯一の機会だと思っております。その期間を延長したり、免除したりするのでは、ドライバーに対する交通安全の大切な講習の機会を逸し、交通事故の危険が増
す確率は高くなるのではないかということを憂慮しております。
 もう一つは、免許更新時の講習の方法です。
 現在は、視力の検査と約三十分程度のビデオを見せるだけで更新手続は終わっていますから、交通事故を防止する講習目的としては不十分と思われます。更新を受けるドライバーに煩わしく負担だという印象を与えるような講習のやり方には問題があります。ドライバーが、道路交通法の目的である安全を学ぶために非常に効果があった、忙しくても更新の講習を受けてよかったと思うようなカリキュラムの作成をお願いしたいと思っております。
 次に、欠格条項廃止の問題であります。
 自動車は、利便性がある反面、極めて危険な乗り物です。このたび、障害者に運転免許が取得できるようになるのは、自動車の危険性がなくなったからではなくて、障害者の人権に配慮する立場から認められたのだと思われます。しかし、人命の犠牲を伴わないことが確立されていなければなりません。つまり、運転する人に責任が伴うものであることが絶対の条件です。このことは、欠格条項の廃止を主張しておられる人も含めて、すべてのドライバーが既に了解していることだと思います。
 したがって、もしも事故を起こした場合、当然法律上の刑事責任を負う義務があることを認識して免許の取得を申し出るべきだと思います。それには、少なくとも申告義務を課し、虚偽申告をすると処罰されることを附帯決議として明記してほしいと思います。このことは諸外国では実施されていることですから、我が国でも最低限必要な条件だと思っております。
 もしも人命を死傷させた場合、意識障害が理由で無罪となるような情状酌量は許されないというのが被害者の偽らざる気持ちであります。障害者の人権の問題と人の命の問題とは全く性質が違うのです。悪質なドライバーには死亡事故を起こした場合に免許を与えてほしくないというのは被害者の偽らざる気持ちであります。したがって、少なくとも、免許取り消し後の欠格期間は下限を定めて、つまり、例えば最低五年ということを定めて、さらに延長していただきたいと思います。
 また、医学的な適性判定指針の基準作成に当たっては、当事者の意見とともに、被害者の意見も聞くことは当然のことと思います。しかし、今回の改正案の第三、今後における課題の中の障害者への配慮として、医学界及び障害者団体の意見を聞くことになってい
て、被害者の意見を聞くことが抜け落ちておることは問題であります。また、障害者が不利益な取り扱いを受けないよう十分に検討を行うと明記されています。不利益な取り扱いを受けないということは、その目的と意図が不明確ですが、道路交通法の目的に逸脱するおそれがあるとすれば、削除されるべきであると思っております。
 とにかく、障害者を特別扱いすることなく、道路の交通に起因する障害の防止に重大に配慮することを、欠格条項の廃止に当たって、附帯決議として明記していただくことをお願いいたします。
 現実に、私たちの会員の数名が、加害者が長い間症状がなくて、突然意識障害が起こり、肉親が死亡させられた遺族がいます。障害者の人権と同時に、死傷させられた被害者にも人権があるのです。去る四月十一日の伊吹国務大臣は、共生の原則と言っておられましたが、運転免許は与えられるものではなく、資格のある人がもらうものでなくてはなりません。
 こうした悲劇をなくし、この二つをうまく満たすためには、突然意識障害が起こった場合、事故につながらないセーフティーネットが確立され、それが整備されて、その上で免許が交付されるのが順序ではないでしょうか。自動車を運転中に意識障害が発症するの
は、障害者だけではありません。糖尿病とか高血圧、循環器疾患などにも起こり得ることであります。新幹線を初め電車や飛行機にも二重、三重のセーフティーネットが講じられています。利便性が高い反面、極めて危険で不安定な自動車に専門的運転技術が要求されておらず、セーフティーネットが講じられていないのは驚くべきことです。
 まずは、突然意識障害が起こる可能性がある人で免許を交付されたドライバーには、ブレーキがついた助手席に同乗者を乗せることを義務づけること、中長期的には、突然意識障害が発症した場合、自動的に停止する構造の自動車の製造を義務づけると同時に、経済的優遇措置を講じることも必要でしょう。これも附帯決議としてお願いしたいと思います。
 次に、罰則の強化についてですが、人の命を守るのに、名目上罰則が強化されても、それが効果のあるものでなければ意味がありません。現実には、免許停止の行政処分を受けても、無免許運転をしている人はたくさん見られます。これでは免許停止の行政処分の意味がありません。これを効果あるものにするためには、もっと検討してみることが必要に思われます。
 例えば、免許証の電磁的方法による記録に関する規定の整備については、プライバシーの侵害が問題になっていますが、むしろ、これを自動車の構造に採用してメーカーに義務づけ、無免許運転の防止やスピード違反の防止、シートベルト着用に活用することは、現在の技術水準から可能ではないかと思われます。
 また、罰則の内容が、明治四十年代の刑法をもとに、そのバランスの上に検討されていますので、現在の車社会とはかけ離れた軽過ぎる刑罰や短過ぎる免許停止期間になっていることは極めて遺憾であります。肉親をある日突然交通事故で奪われた遺族としては、加害者に免許証を二度と与えてほしくないというのは偽らざる気持ちであります。
 次に、交通情報の整備に関する規定の件ですが、事故の正確な情報の開示と科学的な捜査が求められます。
 最近では、事故の捜査が以前に比べるとかなりずさんになりました。そのずさんな捜査結果が検察庁や裁判所へベルトコンベヤーのように乗せられ、送られて、一括処理方式で処分されているのですから、事故の撲滅は望むべくもありません。ある現場の警察官が、幾ら汗を流して一生懸命事故の捜査をしても、検察庁が不起訴処分にしてしまうのではやる気がなくなるという嘆きの言葉を聞いたことがあります。
 昭和六十三年以来、検察庁が寛刑化方針を打ち出してから起訴率は減少し、今や一二%まで下がっております。検察庁の弁明は、やむにやまれぬ事情とはほど遠い幼稚な言いわけにすぎません。めり張りをつけるとか言っておりますが、ざる法的な思考にすぎないと思っております。ありふれた事故には寛容であってよいという言葉は、現在の行政、司法、一般社会の事故に寛容な風潮を物語っております。
 この参考資料の十八ページ、平成十二年度の交通事故発生状況を見ますと、重傷者が八万百四人になっています。これではどの程度の重傷者かが不明で、もっと明確な分類と分析が必要に思われます。配付資料にございますが、重度の後遺障害者は、元運輸省が出された資料では激増しております。これを死亡した人と加えた犠牲者数や交通事故の増加を考えますと、新しい交通戦争が始まったと言っても過言ではないと思います。
 このような現状であるにもかかわらず、交通犯罪を司法や行政は、明治四十年代に制定された業務上過失犯として無理な処理をしています。やむにやまれぬ最悪の事情が現実に存在しているわけですから、この法律は今の時代には適応していません。交通事故を少なくするための核心的立法措置をとることが立法府に課せられた責務ではないでしょうか。明治四十年代の法律を適用して刑法上の法律体系としてバランスをとろうとするから、交通事故防止の刑事上の抑止力が働かなくなっているのです。
 悪質と思われる交通犯罪の法定刑を強化することは当然として、現在の車社会での典型的で多くのありふれた事故の加害者の責任をいかに問うかが、交通事故を少なくする刑罰の核心であると思います。悪質な交通犯罪は、ありふれた交通事故の延長線上に位置しているからです。めり張りをつけるなどと、核心を不問にして悪質な事故に対する処罰だけを強化しましても、問題の解決にはなりません。悪質な交通犯罪につながる芽を早期に摘むことが、交通事故を少なくするには非常に大切なことだと思います。
 最近、法務省は、悪質な交通犯罪に重い刑罰を科す一方で、軽微な交通犯罪を刑事罰の対象から外すことをセットとして検討されているようですが、これでは究極の問題は解決しないと思われます。検察庁は、交通犯罪をいかになくすかを国民から負託されている大もとの機関であり、悪を悪としてただすことがその使命であります。核心の自動車の使用を全く不問にして、ただひたすらこの前提の上でなし得る努力を払っているにすぎません。
 現在の車社会は、社会全体が交通事故に寛容な風潮をつくり出しています。したがって、ますます交通事故は増加するのではないかということを心から憂慮しております。この世から抹殺された犠牲者への生き残った者の責務として、遺族の叫びを重大に受けとめてほしいと願って、私の意見を終わります。どうもありがとうございました。
○横路委員長 ありがとうございました。
 次に、福井参考人にお願いいたします。
○福井参考人 本日は、参考人としてお呼びいただきましてまことにありがとうございます。御紹介いただきました社団法人日本てんかん協会の常務理事、福井典子と申します。道路交通法改正案の障害者関連欠格条項について意見を述べさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 てんかん協会は、一九七六年に二つの組織が一緒になりまして設立をいたしました。以来、全国に支部がつくられております。支部といいましても、親たちがボランティアでやったりしているわけですけれども、その中で私たちはてんかんの社会ケアを行う我が国唯一の団体として、さまざまな活動に取り組んでいるところです。
 さて、今回の道路交通法改正に伴う欠格事項の見直しにつきましては、長年の私たちの悲願といいますか、大変切実な要求にようやく光が当てられたという思いでおります。国際障害者年を経て、政府が中央障害者施策推進協議会を設置し、一九九八年に障害者に係る欠格事項の見直しを発表したことが今日の成果を生んでいることと思いますときに、この間の関係者の皆さんの大きな御尽力に、まず心から感謝をしたいと思います。
 私どもは、毎年国会への要請や請願運動を行っておりまして、この運転免許問題は、いわば重要な運動の柱でございます。全国の仲間がようやく光が見えてきたという感慨の中に今いますことを思いますときに、きょう私は、ここに立たせていただいていることも本当に感慨を持って受けとめております。
 道路交通法の施行が一九六〇年ですから、実に四十年もの長きにわたって、私どもてんかんを持つ者はすべて一律に自動車運転免許を許さない、そういう法律がいわばまかり通ってきたということになります。そういうことを思いますときに、今回の改正の意義と期待の大きさにははかり知れないものがあるということを、まず最初に申し上げておきたいというふうに思うわけでございます。
 さて、ここで若干、私どもてんかんの患者の置かれている現状について少しく述べさせていただきたいと思いますが、今我が国では百万人の人々がてんかんに悩んでおります。私も実はその一人です。てんかんは大変古い時代からの病気ですが、今や医学のすばらしい進歩によって、てんかんは治る時代になってきております。ところが、周囲にその病名を隠すなど、いまだに無理解からくる偏見の中に置かれているという現実があります。勢い、就職も結婚もままならず、在宅者が全国的に多いという実態がございます。
 私も昨年から協会本部に座っておりますけれども、協会本部には、昨日もそうだったのですけれども、全国から連日多くの切実な相談の電話がかかってまいります。中でも、きょう問題にしていただきます自動車運転免許にかかわる訴えというのは非常に切実です。先日もお母さんが、うちの息子はもう運転免許が取れる時期になったのだけれども、取れないということになると周りの人がどう思うだろうか、もう本当に息子と一緒に心中してしまいたいような気持ちだと、電話の向こうで泣きながら訴えるのです。
 私などは東京におりますから、全国的な状況を、そういうことを思いますときに、本当に胸のつぶれる思いがいたしました。特に地方などでは、運転できないと生活できない、それから就職や社会参加の機会を閉ざされる、そういうことにつながるわけで、その暮らしの大変さ、困難さはとても短い時間では言い切れない、つまり察するに余りあるところがあるということを申し上げておきたいと思います。
 障害の状況が法律に明記されることについて、ここで若干申し上げたいと思うのですが、昨年の十月に警察庁から、このことで私どもそれから関係団体は意見聴取を受けました。そのことを皮切りに、御存じのとおり十二月には道路交通法改正試案が発表され、全国的にいわば国民の意見を求められたわけです。しかし、私どもは、それを見まして実は大変びっくりしたわけでございます。
 その中身というと、免許拒否の事由として、「てんかん、精神分裂病等にかかっている者」というふうに明記されているではありませんか。つまり、今まで規制されていた免許を受けることはできるんだけれども、こういう病気、障害に限っては拒否することもできるというふうにはっきりと書かれているわけです。てんかんについては原則拒否であって、事実上絶対的欠格事項を残したものと私たちは受けとめまして、このままでは絶対に認められないというような思いがしたわけでございます。
 そうして私たちは、早速、きょう委員の皆様のお手元にお配りいたしました一月十四日付の見解をもって警察庁とお話し合い、交渉をさせていただきました。その結果が二月になって新たな警察庁案として示されたわけです。きょうも課長おいでですけれども、てんかんという表現は消えましたけれども、かわって、発作により意識障害または運動障害をもたらす病気にかかっている者ということになりまして、拒否事項の障害列記は残されたということになりました。
 それに対して私どもは、全国から集まってきている理事会でも大いに話し合いをいたしまして、お手元に配られております提出の資料、三月十一日付の見解がそれに対する意見でございます。きょうは時間がありませんので十分述べられませんが、ぜひそこをごらんいただきたいと思います。
 重点的に申しますと、最大の問題は、拒否事項の障害列挙なのです。これは、先ほど申し上げましたように、中央障害者施策推進協議会本部が障害者に係る欠格条項の見直しの指針として挙げております「障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正」にいわば明らかに違反するばかりか、広く国際的非難も免れない、ちょっと言葉はどうかと思いますけれども、時代錯誤だと言わなければならない。私どもは、障害列挙をする必要はないのではないかというふうにも考えております。最後に申し上げるようなことで、ぜひ改正の法律案の修正をお願いしたいと思っております。
 細かいことについて述べる時間もないのですが、政令で基準を設けることについても、実は、警察庁との交渉の中で、幾つかこういうことで道を開くのだよということをおっしゃっていただきましたので、一緒に述べさせていただきたいと思います。
 今回提出されております法律案にかかわりまして、警察庁は、病名や処分の基準は政令で決める、ガイドラインについては、私どもが車の両輪のようにお世話になっております日本てんかん学会などと協議して大いに基準に反映させると言ってくだすっています。それは大変結構なんですけれども、また、てんかんについては、拒否対象としない範囲を、例えば睡眠中にだけ発作が起きる者とか一定期間発作がない者ということになっていますが、この発作がない期間については、海外の基準なども参考にすると、私どもは二年以上発作がない者というふうにするのが妥当だと実は考えておりますので、意見として述べさせていただきたいと思います。
 また、治癒した者、治った者は免許拒否の対象とはしないということにしていただくようでございますが、私どもの聞きます学界の定説というのは、このことでは実は定説は決めておりません。今後、判定基準の決定や手続、障害を持った者の手続ですから、そういう手続等については、申すまでもなく、患者の人権を守る立場からしっかりと私どもも意見を述べさせていただく必要があるというふうに考えております。
 明確な基準を設けることの意義について、次に述べさせていただきたいと思います。
 自動車免許の問題では、協会としましては、これまでも交通安全の立場にしっかり立って会員の皆さんへのいわば啓蒙を図ってきたところですし、いろいろと提案もしてまいりました。今回のように明確な基準をつくることによって交通の安全が保たれ、てんかんを持つ人の交通の事故率は実は少なくなるということは、諸外国の例でももう証明済みのところです。判定基準をつくることは交通安全を高めることになると私どもは皆さんに訴えておりますし、そのようにしてまいりたいと思っております。
 繰り返しになりますが、ここは誤解のないように重ねて申し上げたいのですが、私どもは、てんかんであっても一律に運転免許を与えてくださいと言っているのではありません。医学の進歩によって、事実、服薬などで患者の七割から八割は発作がなくなっている人が多数いる、つまり治る病気になっているという現状を踏まえていただいて、てんかんのある人たちの一人一人の状態、つまり病態をはっきりとさせた上で、運転に支障がないと判断される人には資格を与えるべきだと言っているのです。このことは、後から御質問もあったら申し上げようと思いますが、国際的な趨勢でもあるというふうに申し上げたいと思います。
 事故に対する責任は当然のことであり、社会参加のバリアをつくるのではなく、市民として、国民として、参加と責任が可能な条件をつくることが必要だというふうに思っております。
 最後に、これからのことでちょっと申し上げておきたいのですが、私どもは、日本障害者協議会、JDを初め全家連ですとか障害五団体が、去る三月十三日、当時の森内閣総理大臣あてに、道路交通法改正案の障害者関連欠格条項の修正に関する要望というのを実は提出をしてございます。
 それはどういう中身かといいますと、改正の最大の問題点、さっき申しました障害列記の箇所を、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある症状として政令で定めるものと修正してほしいというものです。どうか当委員会の議員の皆様にも、この点で十分御理解をいただきたいと思っております。
 また、これは委員会で決めていただくことですけれども、当然のことながら、見直し規定ですとか附帯決議等も必要であると考えておりますので、どうぞよろしくお願いをいたします。
 御承知のとおり、障害者の欠格条項の見直しはまだ多くを残しております。今回のことを通して、これからは、私ども障害者自身が参画した法案づくりの仕組みをぜひつくっていかなければならないと痛感させられております。自立と社会参加の道を閉ざされ、希望のない暮らしを余儀なくされている全国百万人の仲間とその家族のことを思うと、私たちは、一層他団体と協力を深め、運動を広げていかなければならないと思っております。この運転免許問題をその新たな第一歩として、引き続き障害者の完全参加と平等を目指してまいります。どうかこれからもよろしくお願いいたします。時間制限の中で十分意を尽くせませんが、何とぞよろしくお願いをいたします。
 以上でございます。大変ありがとうございました。

○横路委員長 ありがとうございました。
 以上で各参考人からの意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
○横路委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岩崎忠夫君。
○岩崎委員 自由民主党の岩崎忠夫でございます。
 参考人におかれましては、大変お忙しい中を御出席いただきまして、それぞれのお立場から極めて示唆に富みました大変貴重な意見を賜りまして、ありがとうございました。
 では、早速質問に入らせていただきます。
 まず、運転免許証の更新制度について、長江参考人、井手参考人にお伺いをしたいと思います。
 運転免許証の更新制度は、我が国運転免許適齢人口の約七割、七千四百万人を超える運転免許保有者を対象とするものでございます。交通安全の確保にとりましても、また国民の利便にとりましても、ないがしろにできない大変重要な問題でございます。そのあり方につきましては、改めて規制緩和と言うまでもなく、交通安全の確保が損なわれない範囲内で、国民負担が過度にならないよう負担軽減が図られることが肝要であります。
 そこで、更新制度の核心であります運転免許証の有効期間についてでありますけれども、諸外国の例を見てもまちまちでございまして、近年制度改正が行われたイギリスにおいては十年、ドイツにおいては五年ということで、必ずしも一定していないようでございます。事故防止に果たします交通安全の重要性でありますとか、あるいは定期的な適性チェックの必要性などといったようなことも勘案いたしますれば、改正案にございます有効期間の原則五年というのは妥当なような気もいたしますが、長江参考人は、運転免許制度に関する懇談会の委員もなさっておられるというように伺っております。運転免許証の有効期間についてはどのように考えていったらよいのか、その基本的な考え方についてお教えいただければ幸いと存じます。
 また、井手参考人は、免許更新は運転者教育の唯一の機会であり、安易に免許証の有効期間を延長すべきではないとのお考えのようにお伺いいたしましたが、原則五年という免許証の有効期間、これは長過ぎるとお考えでございましょうか、お伺いをしたいと思います。
○長江参考人 私、全く私見を申し上げますが、私が免許を取りましたときには更新が二年でした。その後三年になりまして、今、優良運転者のゴールドカードができたときに五年になりました。ずっと前から私は、もう少し長くてもいいんじゃないかということと、今お話しのその間にいろいろな情報を伝えるということとはちょっと違うんだろうと思います。
 もちろん、免許証を保有しておられる方が運転あるいは法規に関するいろいろな情報をとるのが免許更新時の講習だけということではないような気がいたします。例えば安全運転管理者だとかいろいろな制度がありまして、しかも最近は講習が、試験場へ行かなければ、あるいは更新をするところへ行かなければだめだということでもない。むしろ講習の質を上げるという努力をされていますので、そういう意味でいうと、じゃ五年がどうなのかというと、多分これは、ゴールド免許が実施されてからの実績ということがあって提案をされているんだろうと私は解釈をしております。通常では問題ありませんし、何か問題があった人はその都度個別にそれなりの講習を受けるというようなことの方がより効果的ではないかというふうに考えております。
○井手参考人 私は、運転免許の期間の問題ではなくて、問題は、適正に行われているかどうかが問題ですから、今の運転講習制度のあり方というものも含めてもう少し検討した方がいいのではないかと思います。
 あと、五年ということですが、これはできれば短い方がいいと私は思っております。
○岩崎委員 どうもありがとうございました。
 それでは、今話にも出ましたが、優良運転者の優遇制度の考え方につきまして、長江参考人、井手参考人にお伺いしたいと思います。
 大変個人的なことを申し上げて恐縮でございますが、実は私は昭和三十六年に運転免許証を取得いたしまして、以来四十年間、無事故無違反であります。ところが、前回、誕生日の日にふと気がつきまして、ひょっとしたらことしが免許の書きかえの年かなと思って確かめましたところ、案の定、有効期限の当日に当たっておりまして、いわゆるうっかり失効となってしまいました。その点、今回免許証の更新期間が、誕生日の一カ月前から一カ月後にまで二カ月ということで延長される改正が行われますことは、大変よい改正だろうと思っているわけであります。
 うっかり失効になりまして一番残念なことは、うっかり失効後の免許取得は更新ではなく新規取得の扱いになってしまいまして、当時三十数年間、無事故無違反の輝かしい優良運転者の経歴が一挙に消滅してしまったことであります。この点も今回の改正で一部手当てがなされるようでございますが、それはともかくとしまして、今回の改正で免許証の有効期間が、原則三年なりあるいは五年が、原則五年ということになったわけであります。こういうようなことによりまして優良運転者のメリットが著しく減じられたことになるわけであります。
 そもそも、優良運転者の優遇措置が安全運転を促すために有用であるといたしますならば、優良運転者にはっきりメリットがわかるような措置、例えば免許証の有効期間を、原則五年でありますが、それを七年にするとか、めり張りがきいた規定にした方がよいのではなかろうかというようにも考えるのでありますが、交通安全上、優良運転者の優遇措置とはどこまで許されるのか、あるいはどのように考えたらよいのか。長江先生は今、よきドライバーをつくる奨励策の一つとしてこの優良運転者の優遇制度をとらえておられるというように話されたわけでありますが、御所見を伺いたいと思います。
 また、井手参考人にお尋ねしたいと思いますが、全国交通事故遺族の会では、警察庁長官に対します意見書の中で、免許証の更新は、運転者の安全に対する自覚の節目と運転適性の定期的チェックであって、無事故であるとか無違反であるとかで延長されたり免除されるべきではないとされておるのでありますが、優良運転者の優遇措置を考える上でも大変重要な視点だと思いますので、井手参考人に再度、優良運転者の優遇措置についての御意見を賜りたいと思います。
○長江参考人 私は、実はゴールド免許で昨年書きかえをいたしました。七年になっていればよかったなと思っておりますけれども、実はゴールド免許ができたときに、メリット制であるという議論がありました。通常は三年だけれども、優良運転者だから五年にするというふうな話がありましたが、たったそれだけのことだったのです。今議員お話しのように、私は何らかのメリットがあったらいいと思いましたが、実はゴールド免許が始まって、六本木でまず、ゴールド免許を持っている人は有料駐車場の料金を割り引くという、民間は既にそういうことをやっております。
 やはりこの辺のところも、多くの人が、すべての運転者が優良運転者になっていれば事故は起きないはずですから、そういうふうな意味で、優良運転者の数をふやしていくということをぜひひとつお考えいただいて、お手当ていただければありがたいと思います。
○井手参考人 優良運転者については先生の説に賛成であります。
○岩崎委員 どうもありがとうございました。
 次に、大型二種免許等を受けようとする者に対する応急救護措置に関する講習について、長江参考人にお伺いをしたいと思います。
 交通事故による死傷者につきましては、救急車が到着するまでの間に、事故当事者等により、迅速かつ適切に応急救護の措置が講じられることが必要であることは言うまでもありません。救命手当ての対象となります心肺停止者の蘇生率は、心肺停止後、分刻みで低下しまして、心肺停止五分後の蘇生率は二五%にまで落ち込むと言われております。一方、救急車が現場に到着するのに要する平均時間は六・一分であります。その間をつなぐ応急救護の措置がどうしても必要なゆえんであります。
 今回の改正で、大型二種免許等を受けようとする者は、公安委員会が行う応急救護措置に関する講習等を受けなければならないとされていますが、交通事故の実態を考えますれば、むしろ遅きに失した感さえ受けるのであります。アメリカのよきサマリア人の法、グッド・サマリアン・ローのような法制を持たない我が国におきましても、応急手当てを施した者は、原則としてそれに伴う責任を問われることはないともされているわけであります。
 市町村の消防機関が平成五年から行っております応急手当ての講習は、年々受講者がふえまして、平成十一年には八十三万九千人を数えております。この消防機関の行います普通救命講習でも、心肺蘇生法など実習を主体といたしまして三時間をかけて行われます。上級救命講習では八時間の講習が行われております。現在、第一種免許を受けようとする者が受講する応急救護措置に関する講習も、実技も含め三時間であります。
 そこで、今回の改正によります応急救護措置に関する講習でどの程度に充実した講習が行われたらよいのか、長江参考人、お考えがございましたら、よろしく御教示願いたいと思います。
○長江参考人 今、議員がおっしゃられたとおりだと思いますが、実はもう一つ、第二種免許の教習所での教習をするという問題のときに、一種免と二種免と何が違うのかという話がありました。
 そういう中で最も大事なことは、いわば、自家用車であれば自分の知っている人、家族だとか友人だとかを送るわけですが、実は、二種免というのは不特定多数の方を乗せてその命を預かるということになります。そうしますと、他人の命をきちんと守るという心
構えをどういうふうにつくるか、それから万が一何かがあったときにどういうふうに応急処置をするのか、そういうことをいわゆる教習課程の中で二種免を受けようとする人たちにきちんと心に決めてもらうということの一つに、やはり自分で手を下し、汗を流すということが大事じゃないのか。
 ですから、救急救命というのを単にテクニックというふうにおとりになると、多分その効果は出てこないだろう。だれのためにやるのか、なぜやるのかということが受講者の人たちにわかっていただければ、当然、周りの人の命だとかそういうことも気遣いして運転をしてくれるだろう。そういう意味で、実は、文字で書いてしまいますとこれをやれということになりますが、問題は、やる心というものをどういうふうにとらえるかということが非常に大事だと思います。
○岩崎委員 どうもありがとうございました。
 二種免許を受ける者は特に心して、心を込めて応急手当の講習を受けるべきだと、しかとわかった次第であります。
 次に、障害者に係る免許の欠格事由の見直しにつきまして、福井参考人、井手参考人にお伺いをしたいと思います。
 平成十一年八月の障害者施策推進本部決定では、資格・免許制度の障害者に係る欠格事項については、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、その見直しに当たっては、現在の医学、科学技術の水準等を踏まえ、再検討するものとされておりますが、今回の道交法改正では、障害者に係る免許の欠格事由を廃止し、障害者でも試験に合格すれば免許を与えることとされておるわけであります。ただし、一定の病気にかかっている者については、政令で定める基準に従い、免許を与えず、あるいは免許を取り消すことができることとされております。
 この問題は交通安全の確保と人権に係る問題でもございまして、一方で障害者が社会活動に参加することを不当に阻むことがあってはなりませんが、同時に、交通安全の確保を図るという観点も欠かせません。ただいまの参考人意見陳述では、井手参考人は、障害者の人権への配慮も人命の犠牲を伴わないことが前提となるという趣旨の御意見のように伺いましたが、今回の改正案の考え方について、改めて福井参考人及び井手参考人のお考えをちょうだいいたしたいと思います。
○井手参考人 障害者の社会参加という意味での障害者の人権を配慮するということに対しては賛成でありますけれども、実は、例えば一年か二年ぐらい症状がなければ与えてもいいんだということは、医学的に非常に不安であります。例えば、私の遺族の会の会員
で、二十年間何も症状はなくて突然意識障害を起こして、それで死亡させられたという方があります。ですから、一年か二年で、それで免許を与えてもいいんだというのは、非常に短絡的なことではないかと思います。
 ただ、長期的に障害者の人権を守るというか、社会参加を促進する意味で、セーフティーネットといいますか、いわゆる自動車の構造に、例えば意識障害が起こった場合には車が自動的にとまるような、そういうふうな技術革新といいますか、そういうものを取り入れてもらいたいと思うのです。実は、今回はてんかんのことが問題になっておりますけれども、意識障害を起こすのはてんかんだけではないのです。先ほども申し上げましたように、糖尿病でも高血圧でも循環器障害でもあるわけでありますから、当然そういうセーフティーネットを早く構築していただきたいというふうに思っております。
○福井参考人 ただいまの御質問でございますが、私、過日のこの内閣委員会も実は傍聴させていただいておりました。
 おっしゃるように、いわゆる障害者の人権を守ることと交通の安全上人命を守ること、これは対置して考えるというか、ごく当然のことでございますよね。ですから、私も今意見の中で、その辺は力を込めて言ったつもりでございます。欠格条項ということは、つまり、障害を持っている人には実はこういう権利は与えないんだよということを国がみずから宣言しているわけでして、いわゆる国際障害者年の完全参加と平等ということからいっても、実は今の二十一世紀の時代、これはできるだけ早くやめようではないかということで、私ども当事者にとっては実は遅きに失したと思っているぐらいのことでございます。 ですから、つまり、どうすれば重い障害を持った人も参加できるだろうか。それには、医学の進歩や、いろいろな機器の開発や、いろいろな公的な援助や、そういうものが重なって、今私たちは、欠格条項の見直しが大きく打ち出されている中で、私たちの権利も保障していただきたいと言っているわけでございますので、その辺の一番根源的なことを考えていただきたいというふうに思います。
 それから、私ども、てんかんにかかわりますことにつきましては、今も申し上げましたように、いろいろと政令等で細かく決めていただくことはもちろんでございます。そこでこそ、私たちの人権が守られ、安全が守られることが両立していくのだと、覚悟といいますか、しっかりと受けとめているところでございますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 お答えになりましたでしょうか。
○岩崎委員 どうもありがとうございました。
 最後に、悪質、危険運転者対策の強化につきまして、井手参考人、長江参考人にお伺いをしたいと思います。
 交通事故がふえ続けました四十年代からずっと、無免許、酔っ払い、スピード違反などに対しまして、交通三悪あるいは交通凶悪犯としてその追放が叫ばれてまいりましたが、近年、救護義務違反、酒酔い運転、暴走族の共同危険行為など、悪質で危険な違反に対します罰則が軽過ぎるとしまして、悪質、危険な違反について厳罰を求める機運が急速に高まってきておるわけであります。
 今回、これらの悪質、危険な違反者に対します罰則が引き上げられることになりましたが、そもそも、懲役刑はともかくとしまして、我が国の罰金刑の量刑は、犯罪抑止効果を上げるには余りにも低過ぎるとも考えられるのでありますが、交通違反に関する罰則の事故防止への抑止効果、あるいは罰則の見直しをどのように考えていくべきなのか、井手参考人、長江参考人、一言ずつお答えを賜りたいと思います。
○長江参考人 先ほど私の意見の中で申し上げましたが、やはり人間とは弱いものですから、何らかの罰則があるよと頭の中にあればいいんだと思いますが、ある方が、これは特定の地域のところですが、駐車場を借りるよりも駐車違反で捕まる方が年間では安くなるというようなことをドライバーが言っている。これはもってのほかだろうと思います。
 ただし、基本的には私は、刑事罰と行政罰それから民事の責任、これはそれぞれがバランスがとれていなければいけないんだろうと思いますが、本当に迷惑になるものはなくそうとすればたくさん払わなければいけないというふうに周知すれば、それが減ってくるのが世の中じゃないかなと考えております。
○井手参考人 現在の法律が非常に昔の、明治時代の法律を適用しているというところにも問題があるように思うのですね。ですから、これは立法府の責任ですから、新しい法律をつくっていただきたいと思います。いつまでも業務上過失致死でいいのか、今の時代、今の車社会に合っているのかということを問い直して、立法府の責任において刑罰の問題はきちっとしていただきたい。現在、刑事罰とか行政罰とか民事罰が非常に希薄になっておりますので、これをもう少しはっきりとさせていただきたいと思っております。
○岩崎委員 以上で質問を終わります。参考人におかれましては、それぞれ貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございました。
○横路委員長 井上和雄君。
○井上(和)委員 民主党の井上和雄でございます。参考人の皆様方、本日はよろしくお願いいたします。
 まず、井手参考人にお伺いいたします。
 井手参考人、日ごろ私どもの超党派の議連である交通事故を考える議員の会に御協力いただきまして、まことにありがとうございます。遺族の会の皆様の、交通事故をなくさなきゃいけない、二度と自分たちが経験したような悲惨なことがない社会にしたい、そういう御熱意と行動力に対して、深く敬意を表したいと思います。
 それで、本日お伺いしたいことは、井手参考人御自身もみずから御経験されたことだと思うんですけれども、遺族の会の皆様、突然の交通事故により愛する家族を失われた、そして、さらにその後、例えばその事故が警察においてきちんと捜査されないとか、そしてまたその捜査に疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれないし、また不起訴になるということも多々あります。また、たとえ起訴になった場合にも、何度か例が出ておりますけれども、その罰が不当に低い、そういった事態も現実に起こっております。まさに、交通事故の被害を受けて、その後さらに二重三重の苦しみを遺族の方が受けている現状があると私は思うんですね。
 そういった意味で、ぜひ参考人に、御自身の経験、また遺族の会の皆さんの経験という観点から、被害者への対策というものが現在どういうふうになっていて、どういうところを改めなきゃいけないか、そんなことを率直に言っていただければと思うんですが。よ
ろしくお願いします。
○井手参考人 よく言われることですが、交通事故に遭ったと思いなさいということで、交通事故というのは遭っても仕方がないんだと思われているようなんですけれども、それは非常に困った考え方でありまして、先生が今議連の方でいろいろ御活躍していらっし
ゃいますけれども、やはり、交通事故に対して、人ごとではないというか、認識を深めていただくようにすることが非常に大事でありまして、まず、国会の中に交通事故に関する委員会がなくなったということは非常に問題があると思うんですね。ですから、まずこれを入れていただきたいというふうに思っております。
 被害者対策については、いろいろとございますけれども、まずお願いしたいことは、基本的に、交通事故に対して人ごとではないんだという認識を抱いていただくというのが一番大事だというふうに思っております。
○井上(和)委員 国会における取り組みということ、確かに私自身も十分じゃないということをこの委員会でも申し上げまして、理事会でもいろいろ検討していただいているところでございますので、何らかの活発な議論が行われるということになると思いますの
で、御期待ください。
 それで、今、交通事故に遭ったと思いなさいとおっしゃったお言葉が、まさに参考人のお気持ちをあらわしているんじゃないかなというふうに思いました。そういった意味で、いつ自分が遭うかわからないということをやはり国民、ドライバー自身がしっかり自覚して日ごろ運転しなければいけない、そういう認識を持たせるような努力をあらゆる場面でやっていかなきゃいけないと思うんですね。私自身も日ごろ車を運転していますし、運転をするたびに冷やっと思うようなこともあります。だから、本当に毎日毎日が、運転するたびに、事故を起こさないということを心にとめながら運転はしているんです。
 それで、御存じのように、私ども民主党では、一昨年の十一月に、東名高速で酒酔い運転のトラックに追突されて幼い二人のお嬢さんが亡くなったというような事故とか、それ以外にも本当に悲惨な事故がありました。しかしながら、その裁判の判決というものが、東名の場合も懲役四年というように異常に軽い。そしてまた、裁判官みずからが、立法府がこういった法律を見直す必要があるんじゃないかということも示唆されている。そういうことで、今回、民主党と無所属クラブで法律を提出いたしました。
 この法案というのは、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案というものですけれども、簡単に御説明いたしますが、要するに、酒酔い運転、麻薬等の運転、共同危険行為等、また無免許、酒気帯び、過労運転等の規定に該当する違反行為をして交通事故を起こして人を死傷させた場合には十年以下の懲役というふうに、これまでの業務上過失致死の懲役五年を十年に引き上げるということが趣旨の法律です。
 私どもがこういった法律を提出する背景というのは、遺族の会の皆さん、また東名高速でお子さんを亡くされた井上御夫妻のお働きとか世論の要請を受けてこういう法律を提出したわけですけれども、いろいろな思いがあると思うんですね。まだ十年じゃとても軽いんじゃないかとか、その辺を率直にお伺いしたいと思うのです。よろしくお願いします。
○井手参考人 民主党のこの法案には大賛成でございます。本当は通していただきたかったんですが、どうもいろいろな事情があって通せなかった。この間、法務省と警察庁の間でお話があったんですが、どうも軽微業過と悪質業過を切り離して、軽微業過を刑事罰から除外するということをセットでやろうとしていらっしゃる。これでは交通事故はなくならないと思うんですね。民主党の案には賛成なんです。悪質な運転手に対して厳罰を処すというのは大賛成です。ですけれども、切り離して、それで軽微な業務上過失は罪を問わないというのでは、国民の命を守るという意味からは不適切じゃないかなというふうに私は思っております。
○井上(和)委員 法案はまだ当委員会で採決されておりませんので、御了承いただきたいと思います。とにかく、この法律を成立させるように、与党の方にも御協力をお願いしている次第です。
 それで、軽微な交通違反が大きな交通事故につながるんだという参考人のお言葉、私もそれは本当に同感です。スピード違反なんかでも、日本の場合、きちっとした取り締まりがされていないから、どんどんスピード違反が常習化というのですか、ごく当たり前のように行われているのが実態です。そういう意味で、あらゆる場面で交通違反をなくするような取り締まりの強化ということも私訴えていきたいと思うんですね。
 それで、次は福井参考人にお伺いいたします。
 今回の欠格事項に関しての自動車運転免許の問題に関して、日本てんかん学会としてもいろいろな医学的な面から研究調査されていると思うんですけれども、てんかん協会として医学的な面に関してどういうことを認識しているか、ちょっと教えていただけますでしょうか。
○福井参考人 てんかん学会についての御質問でございますが、てんかん学会は、私たちてんかん協会のいろいろな活動を医療の面から支えてくださっていまして、これまでも、車の両輪のように、先ほども申し上げたように活動を続けているところでございます。
 今回の欠格条項の見直しに際しましても、国際的にてんかん協会がございまして、その中でも大変いろいろな調査や研究が進んでいるんですが、とりわけてんかん学会の皆様方の医療的な調査や研究の積み重ね、それが今回非常に私たちを励ましてくれましたし、もうそちらも御存じと思いますが、私たちよりもいち早く、ことしの一月十日と三月二日に、こういう膨大な資料もつけたものを警察庁の方に提出をしていただいて、医療的な見地から、てんかんの人たちのこういうところをチェックしていけば大丈夫なんだ、国際的にもこういうところがいわばクリアされているというようなことも提出をしていただいていて、きょうはむしろてんかん学会の先生もお呼びいただきたいなと思ったぐらいでございます。
 そういうことでよろしゅうございましょうか。
○井上(和)委員 今回の法改正に伴っててんかん協会としてはどういう決意で臨んでいくのか。特に会員に対する啓蒙はかなり重要になってくると思うのですけれども、それに関して何か今計画されていることがあったらお伺いしたいんですけれども。
○福井参考人 大変ありがとうございます。
 先ほどもちょっと述べさせてもらったところなんですけれども、私たち、全国で百万人と言われておりますが、どうしても治ってしまうとやめてしまうというようなこともありまして、今全国で七千人ちょっとの会員なんですけれども、全国に支部がありますものですから、機関誌を毎月出しておりまして、「波」というのですけれども、そこにこの欠格条項問題はずっと取り上げておりますし、それから、このところ、やはりマスコミでも取り上げてもらっております。
 そして、権利を得るということは、同時に社会的責任を負うということで、患者組織としてはこれからが正念場だと実は思っております。道が開かれたことに対する喜びは、みんなが規則を守っていこうということで社会的にアピールしていくと思っておりますの
で、間もなく全国から会員が集う支部代表者会議ですとか総会ですとかございますし、十一月には長崎で大会も開かれますので、いろいろな場面でこの問題を、私たちの権利の問題と義務の問題とあわせて大いに取り組んでまいりたいと思っております。
○井上(和)委員 次に、最後になりますが、長江参考人とまた井手参考人にちょっとお伺いしたいんです。
 先ほど長江参考人が、運転というのは一つのシステムであって、人と車と道路・環境ということがシステムとして、一番低いレベルに連動してシステムが機能するということをおっしゃったんですけれども、今、年間九千人の方が交通事故で亡くなっている。そしてまた、さっき井手参考人からも参考資料を提出していただいて、負傷する方も非常に多いという事実があります。そういった意味で、交通事故をなくしていくというのをシステム論的に考えて、具体的にどういうふうにやったら交通事故を有効に減らすことができるのかということに関してお伺いしたいんです。
 そういう問題にあわせて、井手参考人からも、もし御意見がございましたらお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。
○長江参考人 先ほど私はそんなことを申し上げましたが、交通安全教育とか交通安全活動というのが主に人に向けて進められています。
 人々は、交通安全教育とか交通安全活動というと説教かというふうに受け取っているんですが、現実に事故の内容をごらんいただきますと、死傷者数が昨年はたしか百十五万人を超えているんですね。ということは、八十人から九十人の人が集まると、その中に一人は交通事故でけがをしたとかいう人が含まれる。しかし一方では、先ほどのお話のように、交通事故は、いわゆる交通事故で万が一という、ですから、死者数は減っているんですが、事故件数とか死傷者数がふえている。しかも、それを見てみますと、端的な言い方をしますと、追突が多いとかあるいはその原因としてわき見をしていたとか、漫然運転というのが非常に多いわけですね。
 運転の主体は人間だと言いました。運転をするドライバーというのは、先ほどもあった権利と義務というのがありますので、その辺をもう一度思い起こしていただくような活動をドライバーに向けてしなきゃいけないと思います。
 人としては非常に難しいと思いますが、今国民皆免許と言われて、運転をされる方は御存じだと思いますが、自分が運転をしていると、歩行者がゆっくりと横断歩道を渡って、時にはちょっとあけてくれれば後続の車に迷惑をかけないように走れるのに、それをしてくれない。しかし、今度は自分が歩行者の立場に立つと歩行者優先であるというふうな、いわゆる別な側面を出して行動するということもありますので、世の中をどうしたらよくするかという観点からもう一度、ドライバーはどうあるべきか、歩行者はどうあるべきかというようなことを、国民的な議論の形にするかどうかわかりませんけれども、いい社会をつくって享受できるような世の中にするためにどうしたらいいんだろうか。私は教育以外にはないと思っております。
○井手参考人 私は、自動車の使用ということを不問にして、それを前提にしていろいろなことが言われるものですから、加害者の過失とか被害者の過失とか道路の状況とか、そういうことだけが問題になるものですから、どうしても交通事故は減らないと思うんですね。
 私の近くの警察官がお話ししていたんですが、やはり総量規制というか、車の量を減らさない限り交通事故は減らないと。そうであれば、やはり車に頼らないでも生活できるような交通システムというか、二十一世紀に合ったような交通システムに変えていくような努力をしていかないと、いつまでたっても今の状況は変わらないのではないかなという心配をしております。
○井上(和)委員 本日はどうもありがとうございました。
 以上で終わります。
○横路委員長 河合正智君。
○河合委員 公明党の河合正智でございます。
 本日、長江参考人におかれましては、自動車工学と安全交通に関する第一人者として御出席いただきましたし、それから、井手参考人、福井参考人におかれましては、お述べになっているお姿の中から、本当に身につまされる思いでお聞きいたしておりました。特に、ともすれば立場が全く正反対のお二人の参考人が同じ席でこのような私たちの質疑に応じてくださいましたことに、心から感謝申し上げさせていただきます。
 最初に、福井参考人にお伺いさせていただきたいと思います。
 最終的に運転ができないとされた場合に、しかし、先ほどお述べになっておりましたように、就職もできない結婚もできない、しかし生きていかなきゃいけない、そういう立場に立たれた方たちのためにどういうことをなし得るのか、また、どういうことをさせていただいたらいいのか、御意見がございましたら最初にお伺いさせていただきたいと思います。
○福井参考人 一人一人の患者に立って御質問いただいて大変ありがたい、恐縮でございます。実は、そういう人たちが全国にたくさんおりまして、私どものところにも相談が引きも切らないわけでございます。
 私たちは、所得保障といいますか、障害者が自立していく道を例えば日本障害者協議会などで御一緒に検討もさせていただいておりますが、てんかん患者に関して申しますと、私どもの支部があります全国のいろいろなところで、例えば福岡ですとか東京ですとか富山ですとか、てんかんを持った人たちを中心にした作業所を今実は立ち上げております。ぜひいろいろと御援助や御配慮も賜りたいと思います。別にてんかんだけというのではないのですけれども、その人たちのことを理解できる作業所を立ち上げておりまして、福岡などではもう三カ所も立ち上がっております。
 そういう試みと同時に、また、どうしても就職もできないでという場合には、もちろん、いろいろな方面からその人の条件が精査されなければなりませんが、生活保護をもらうとか、それから障害年金でございますね、そのあたりも、精神保健福祉手帳などもいただいておりますので、そういう関係で障害年金の取得ですとか、それから、申し上げるまでもなく、障害者基本法の中に私どもはきちっと位置づけられていないのでございます。
 そういう点で、しっかりと一人一人の生活が保障されていくということを考えますときに、いろいろと御要望したいことがございまして、また、私ども、六月になりましたらいろいろな要望も国会に提出をする運びになっておりますので、どうぞ多角的ないろいろな面から御援助を賜りたいとこの際お願いをしておきます。よろしくお願いいたします。
○河合委員 ぜひとも、その都度その都度率直に御要望をちょうだいできたらと存じます。
 井手参考人がおっしゃっておりましたことで、中長期的なこととして位置づけられておりますけれども、突然意識障害が発症した場合に自動的に停止する構造の自動車の製造を義務づけることも必要なのではないかと。とりあえずは、突然意識障害が起こる可能性がある人で免許を交付されたドライバーには、ブレーキがついた助手席に同乗者を乗せることを義務づけることが大事ではないかとおっしゃっておりましたことに対しまして、長江参考人、御専門の立場からどのようにお考えでしょうか。御意見を賜れたらと思います。
○長江参考人 既に御案内だと思いますが、ITS、高度道路交通システムというシステムを採用するに当たって、日本でも、ASVと言っておりますアドバンスト・セーフティー・ビークル、これはいろいろな新技術の開発をやっておりまして、既にもうそれが実用化されてあると思います。今お話しのように、自動運転することを想定しているのですが、もし障害物があった場合にはそれを避けて通っていくというのととまってしまうという装置は、もう既に実験段階では済んでおります。
 それから、市販されているものでいいますと、何かがあったときにボタンを押せばSOSをして、そして救急車が、こちらが通報しなくても、いわゆるGPSを使って位置を確認してもらってできるというのも、もう市販はされています。
 それから、一度市販されましたけれども、実は居眠りをしている人に対してはどう起こすか、起こしても起きないときには車をとめてしまおうという装置も実はできてはいます。
 ただ問題は、今市販されているものは何か体にいろいろなものをつけておけば簡単にわかるわけですけれども、それがなくて、ハンドルを握っているだけというものですから、ハンドル操作の変化と、それからいわゆる小型カメラがついていまして、これで寝ているかどうかというようなことですが、それに対して、今お話しのように、何か例えば心筋梗塞だとかそういうようなことのときにはどうなるかというようなことをそれにつけ加えていくなり、あるいはもう少し、何か特殊な手袋をはめてもらうとかいうふうなことがあれば、それはそれでできる。車を自動的にとめるという技術はもう開発されています。問題は、それをどうやって読み取るかという技術の方が、センサーの方が問題かなと思います。
 以上です。
○河合委員 ありがとうございます。
 それを義務づけることについてはいかがでございましょうか。
○長江参考人 多分技術屋は、私も技術屋の端くれですが、いいものはつけたいと思いますが、現実にはその費用負担をだれがするかという問題が別な形で残ってまいりますので、技術屋サイドからだけでは、いいものだからつけたらいいじゃないですか、もうできますよと申し上げられますが、これがすべての、あるいはその対象となる車に本当につくかどうかの話はまたちょっと別な観点から見なければいけないと思います。
○河合委員 その問題の一番究極に位置づけられるものかもしれませんけれども、井手参考人がおっしゃっておりました提案でございますが、免許証の電磁的方法による記録、これを自動車の構造に採用してメーカーに義務づける、そして無免許運転の防止やスピード違反の防止やシートベルト着用に活用するという提案でございます。これは、井手参考人みずからがおっしゃっておりますけれども、プライバシーとの関係で非常に難しいことなのかもしれませんが、この提案に対しては長江参考人はどのようにお考えでございましょうか。
○長江参考人 技術的には可能だと思います。今もうヨーロッパでは既に暗証番号を入れないとエンジンがかからないというような車も売り出されていますから、そういう面ではいいのですが、問題は、私は法律の専門家ではありませんが、今回ICカード化する免許証の中に、何を入れてどういうときに引き出せるかという、プライバシーの問題があると思いますが、この辺のところの議論がないと、技術的にはできますけれども、多分これはいろいろ問題がまた出てくるのじゃないかというふうに懸念はしております。
 技術的にはそれはできますが、しかし同時に、身近な問題とすれば、友人と二人で行って、疲れたから交代してくれないか、あるいは奥さんに交代してもらおうというときに、その登録をどういうふうにするのかという問題があるのだろうと思います。技術的には可能だと思います。
○河合委員 井手参考人にお伺いさせていただきたいと思いますけれども、免許を取り消された方が再び取得するということに対しまして、どのようなお考え、また、どのような制限を設けたらいいとお考えでしょうか。
○井手参考人 私は、被害者感情といいますか、被害者の立場からいいますと、もう二度と免許を与えてほしくないというのが事実であります。ですけれども、やはりできるだけ長く免許を与えないようにしてほしいというのが気持ちです。
○河合委員 車社会における必要悪といいますか、まさに私たち人間が高度に技術化された文明の中で直面している問題でございますけれども、そしてまた一方で、少子高齢化に入っておりまして、高齢社会における交通事故の防止というのは、これはもう本当に身につまされる切実な社会的な課題となっております。
 まず、高齢者が事故に遭わない、それからもう一方で高齢者が事故を起こさない、この二つの点が大事だと思いますけれども、この二つの点につきまして参考人の御意見をちょうだいできたらと思います。どのような方法が有効であるのかも含めましてお願い申し上げます。
○長江参考人 実は、総務庁がありましたときに、もう十年ぐらい前だと思いますが、この辺のところの検討会も開いておりますが、その当時、今もそうですけれども、高齢者の中で歩行中に事故に遭われる方の数を調べましたら、運転免許を持っている人に比べて持っていない人が圧倒的に高いのですね。運転免許証を持っている方というのは、多分十分の一ぐらいなのですというようなことがわかりました。
 これからのいわゆる高齢化社会の中には、免許を保有している方もいらっしゃるわけですから、そういうふうな意味でいうと、その辺の交通社会に対するいろいろな危険なこと、どういうふうに安全を確保するかという知識というのは、持っている方がだんだんお年寄りの中でふえてくるだろう。それは一つの明るい面だと思います。
 ところが、もう一方では、最近問題になっていますのは、運転中のいわゆる加害者になるような事故がお年寄りでふえているというのがあります。これについても、年齢で人を区分けするということは実はできないのです。若い人は割とホモジーニアスといいますか、均一化していますけれども、高齢者に対しては年齢でできない。五十代でももう何かもうろうとしている人がいれば、八十代でかくしゃくとしている人がいる。しかし、いずれにしても、意識、頭の中にある自分というのは多分二十年前、三十年前の若い自分ではないかと思います。現実の自分というのは、病気をしたり何かしたときにはっと気がつくだけです。
 そういうふうな意味でいうと、自分の運転あるいは生活というものに対してどう変化しているのかということの一種の健康診断チェックを何らかの形で制度の中に入れたらいいのではないかというふうに学会で提案をしておりましたけれども、今回の中でそれが盛り込まれて、特に何歳以上ではなくて、その前の人でも参加してもいいですよというような前向きの形になって、そして自分で自覚をし、自分の身をどう処するかという。
 これは、御家族の方ももう免許証を返したらどうだと言うのに、御本人は、いや、これがないと社会人として認められないという話があります。これも、スリーピングライセンス、今そこでは何か運転経歴何とかというふうになっていますが、そういうことで、写真が入り、本人ですということの証明ができれば非常にいいなと思います。
 いずれにしても、私は、運転をするなとか外出をするなとかいうような形の社会は、高齢化社会であっても活力ある長寿社会には決してなり得ないというふうに考えておりますので、活力ある長寿社会をどうつくっていくかということがこれから日本にとって大変大事なところではないかと思います。
○河合委員 先ほどの福井参考人の御意見の中にもございましたけれども、私は、こういう体験を持ったことがございます。それは、ちょうど日本のプラザ合意の前後でございますけれども、一方的にアメリカ社会に車を輸出いたしまして、それによってデトロイト市が崩壊してしまうというような事態にまで行ってしまったときに、メディアが、日本車をハンマーでたたいている映像が非常に流されたことがございますけれども、これは通常の繊維とかの貿易摩擦と違う、激しいものを感じました。
 そのことを、たまたまアメリカにいましたときに、あるアメリカ人の方が、アメリカ社会において車というのは人間の意思の延長であって、ちょうど午前中の質疑にもございましたけれども、西部へ西部へとフロンティアで開拓していったあのことにもつながるのですけれども、車というのは人間の意思が延長している道具だ、だからそれをアメリカ人にとっては意思を抑圧された、奪われたというふうにとらえているんだ、こういうお話を伺いまして、さらにまた先ほどの井手参考人の御意見を伺いまして、この文明の直面しているその根深さ、本当にきょう頭を抱えてしまっている状態でございます。
 しかし、今こういう問題と、さらにもう一つ違うなと思いますのは、例えば酒酔い運転ですとか悪質な暴走による加害ですとか、こういう問題は意思の延長といっても説明がつかない事態でございますが、この点につきましてはどのようにお考えでしょうか。まず井手参考人にお伺いして、その上で長江参考人にお伺いしたいと存じます。
○井手参考人 最近、飲酒運転とか無免許運転というのが非常に問題になっておりますけれども、早く言えば、ちょっとお酒を飲んで運転しようとか、あるいはちょっと免許証がないけれども乗ってみようというようなことから始まって、悪質な運転につながっているケースが多いわけですから、先ほどの繰り返しになりますけれども、やはり、悪質だから処罰するというのではなくて、早期に芽を摘むといいますか、例えば、医学の場合に早期発見、早期治療と言いますけれども、早期に芽を摘むということを心がけるということ
が非常に大事だと思っております。
○長江参考人 まず、予防するということが一番大事なんですが、同時にやはり、予防するためには、もしそういうことをしたときに自分がどういう罰を受けるのかということも非常に大事だと思います。
 ただ、私は、法体系のことはよくわかりません。計算ばかりやって生きてきた男ですからわかりませんが、先ほど申し上げましたように、刑事罰あるいは刑事責任、それから行政責任あるいは民事、その三つのいわば罰もあるはずですので、国民の方々が納得できるような、多分、三本柱であるということは、それぞれ役割分担が決まっていると思いますので、そういう中でバランスのとれた法案を整備していただくことを願っております。
○河合委員 本日は、貴重と言うには余りにも軽過ぎる言葉でございますけれども、御意見を賜りました。今すぐ結論が出る問題、出ない問題、大きな問題を抱えておりますけれども、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。大変にありがとうございました。
○横路委員長 塩田晋君。
○塩田委員 自由党の塩田晋でございます。
 本日は、各参考人におかれまして、我々の法案審議について非常に参考になる貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。
 まず、福井参考人におかれましては、人権擁護のお立場から非常に情熱的に、車社会の中における問題につきまして大変な御苦労をされておることに対しまして、敬意を表したいと存じます。
 これに関連いたしまして、井手参考人からも一部お話がございましたけれども、車自体を改善していくとか、あるいは、突然意識障害が発生したような場合にも自動的に停止する構造の自動車の製造を義務づけるとか、こういう御意見もございましたが、車を人間の体なりあるいは人間に合わせていくというような考え方というものがあるのかどうか、あるいは研究をされておりますか。その点についてお伺いいたします。
○福井参考人 私どもてんかん協会は、患者当事者組織、関係者の方の組織でございまして、実は、きょうここに伺って本当によかったと思いますのは、初めてお伺いするお話もございました。私どもは、今の科学の進歩といいますか、あらゆる部面でのいろいろな技術的な進歩の中で、障害者が本当に完全参加と平等ができますように、つまり、各方面のいろいろな成果を十分に私どものハンディキャップに合わせて私たちの人権が保障されるということには、本当に大いに歓迎をしていきたいというふうに思っております。
 しかし、そういうものがいろいろと提供されましても、一つは、経済的なことがそこにかかわってきますと、そうはいっても、先ほど来申し上げておりますように、自分の暮らしもままならない人たちがそういういろいろな高度な技術のものを本当に購入できるか、自分たちのものにできるかという点がちょっと頭をよぎります。ですから、公的な保障のもとにそういうものが提供されるなら、私たちは大いに歓迎をするところでございまして、また、きょうお伺いしたことも含めて、そういう研究も進めてまいりたいと思っているところでございます。
○塩田委員 ありがとうございます。そのような方向でもまた御努力をいただきたいと期待いたします。
 それから次に、井手参考人にお伺いいたします。
 交通事故に突然遭って命をなくし、またけがをされる、後遺症も残るといった本当に悲惨な状況というものが大変多いわけでございますが、これは、自然的な災害の中での交通事故に遭われた場合もありますし、人的な関係で交通事故に遭われるということももちろんあるわけでございます。こういった悲惨な状況に対しての援護活動をどのようにやってこられたか、そこでの問題点、また、今後、こういう点を国として公的な立場から考えるべきではないかという御意見がございましたら、お伺いいたします。
○井手参考人 まず、交通事故というものは、普通遭わないと思って生活しているわけですね。例えば、駅なんかで交通事故防止の運動をしましても、まずビラをとってくれる人がありません。ということは、自分は事故に遭わないと思って生活しているわけです。ですから、突然事故に遭いますとどうしていいかわからない。非常にパニック状態に陥ってしまうわけですね。
 そういった状態でまず最初に必要とされるのは、心のケアが非常に必要なんです。つまり、精神的ないわゆるPTSDとかASDと言われるような状態に陥った人たちをいかに救うかということが必要なんですが、そういう施設がまだ日本には少ない。ヨーロッパとかアメリカなんかにはかなりできているのですが、少ないので、そういうふうな組織を早くつくっていただきたい。それは、大きなものでなくて小さいものでもいいので、つくっていただきたいと思うのです。これは国でやるということも大事ですけれども、地方自
治体とかそういう小さなところで各地域につくっていただきたいと思います。
 それから、その次に、今度は裁判の問題になるのですが、今は事故の数が非常に多いものですから、裁判制度も画一的といいますか、大体決まったような裁判しかされないので、それを人間味のあるような裁判に直してほしいと思っております。
 その大きな問題というのは、やはり法律が古過ぎると思うのですね。明治四十年代にできたような法律を今も使っている。そうすると、今の時代に合わないわけですね。明治四十年代、何台かしかなかったような時代の過失犯として扱っていたような法律を今の時代に使うこと自体が合わないので、そういう法律の改正が必要なんですが、それは行政とか司法ではできませんので、立法の方で新しい法律案をつくっていただきたいと思っております。
 それからあと、被害者でなければわからない、被害に遭わないとわからないことが多いので、自助組織といいますか、セルフサポートというか、そういうものを国のお助けというか御協力で日本の各地につくっていただきたいと思っております。東京だけとか大阪だけとかいうようなものではなくて、交通事故は日本の各地で起こっておりますから、そういう自助組織を日本全国に、小さなものでいいのでつくっていただきたいというふうに願っております。
○塩田委員 井手参考人が所属しております全国交通事故遺族の会というのは、遺族の方々で生活に困窮しておられる方に対する生活援助の事業も中にあるのでしょうか。それから今、損害賠償の裁判請求、この中でそういった裁判に対する援護活動もやっていらしたのでしょうか。お伺いいたします。
○井手参考人 先ほど申しましたように、まず、心のケアといいますか、メンタルケアと言っておりますが、そういうものをやっております。
 それから、裁判の場合には初めての方が多いわけですから、どういうふうにしていいかわからないということで、裁判のノウハウを教えたりとかして、とにかく被害者が求めていることで私たちが知り得た、知っていることを教えるということをしております。
 それから、生活の援助ということは、まだ日が浅いものですからそこまでは至っておりませんけれども、やはり何らかの方法でそこまで高める必要があるかなというふうに思っております。
○塩田委員 ありがとうございました。頑張っていただきたいと思います。
 次に、長江参考人にお伺いいたします。
 参考人が意見を述べられました中で、陸上交通における事故の要因はその九〇%を超えるものが人的要因である、このようにお述べになりました。確かにそういう要因が大きいと私は感じるわけでございます。そこで教育の必要性も述べられたわけでございまして、それももちろん大事なことだと思います。
 私も、自分の経験からいいまして、車を運転する人、しょっちゅうかわるわけですが、人によりまして本当にいらいらして運転をしている。そういう人はやはり特に事故を起こすわけですね。本当にゆったりとして心穏やかな人は、割合運転もスムーズに、すっととまったり発進したりします。心の問題あるいは人間の問題だということを感ずるわけです。
 それから、先ほど反交通警察感情、反感ということを言われましたが、これも、ドライバーによりましては、走っている途中、ここに信号があるのはおかしい、このつけ方はおかしい、この黄色い線を引いているのは間違いだとか、あらゆることを、私は専門ではないんだけれども、そういうことばかりずっと言う人がいますね。非常に反交通警察感情というのがあるのかなと思っております。それは一人や二人じゃないのですね。そういうことを言うのが趣味かなと思うぐらいに言う人、こういうものがあります。
 やはり人間の問題であるとは思うのですが、先生は工学系統だそうでございますが、車自体、今のお話を聞きますと、ヨーロッパでも、非常に進んでいる面においては、我々は初めて聞くような話の御披露が今ございました。やはり、車の構造自体を直していくというか改善していくという方法、まだその余地はかなりあるのではないか、このように素人ながら思うのですけれども、いかがでございましょうか。
○長江参考人 先ほど申し上げたのはかなり具体的な話なんですが、実は、先ほど申し上げたASV、先進安全自動車という中に、車が走っていて歩行者と衝突したときに、二次衝突を避けるというような車も実は開発が進められています。ボンネットの上からエアバッグが出まして、そこへこう行く。
 御承知のように、今、乗用車がみんなバンパーが低くなっています。高いと、逆に、ぶつかったときに人を押し倒してひいてしまう。それをそうしないようにするためにこうやっていますが、一方では、カンガルーバンパーをつけたような車も実はあります。
 車に関しては、人に優しい、それからぶつかって乗っている人の傷害を減らそうというようなこと、これはもうかなりそういうデータが公表されていますけれども、それ以外に、実は、本当に人の特性に合った車なんだろうかという機械と人間とのつながりをもっとよくしないといけない。えてして近代化というのは、コンピューターもそうだと思いますけれども、人がいわゆる科学技術の産物に合わせるということになっていますが、やはり、それを使って非常に使いやすいというような面からいきますと、ヒューマンインターフェース、こう言っていますが、人間の面から見たときに果たしてその機械がいいのだろうかという研究が先ほど申し上げましたITSの中にあるのですが、これが今一番のネックにはなっております。
 従来は新しいものはいいものだという考え方でした。私は技術屋なものですから、そんなことを言っては悪いのですが、それが技術屋の考え方でしたけれども、できたものが本当に人にとっていいのだろうか、二十一世紀の技術者はそう考えなきゃいけない。私は教育の現場でそういうふうに、これから技術者になる人たちにそう言っていました。
 逆に、人のためになる科学技術の結果をつくらなきゃいけないのじゃないか、それにはどう考えたらいいのかということで、交通文化というのがなかなか出てきませんが、交通文明という言葉はよく出てまいります。これが交通文化になったときに初めてその辺が解決されて出てくる言葉なのかな、早く交通文化あるいは自動車文化という言葉が世の中に膾炙される、そういう世の中になってほしいと思っております。
○塩田委員 ありがとうございました。
 非常に最先端のお話を伺った後で、全く現実的な、またささいな話かもわかりませんけれども、お聞きいただきたいのです。
 一つは、タクシーの運転手が若い高校生男女に殺されたり、あるいは北海道でも連続してそういった事件があったということでございますが、東京では割合、運転席の後ろに防壁をつくっておったり、また最近、助手席にもつくるようになった。ところが、地方へ行きますと、ほとんどこれがない状況ですね。
 外国を見ますと、それぞれまちまちですけれども、徹底して防壁をつくっているところもある、いろいろな装置もつくって防犯に努めている、こういうことがございますが、これはやはり義務づけないとできないものでしょうか。これについてのお考えをひとつお聞きしたい。
 もう一つは、いわゆる暴走族ですね。これは、先生が言われますように、教育して、人間、心を変えれば、人を困らせたり迷惑をかける、そういう行為はしないし、また、けたたましい音を出して深夜に多くの人の睡眠を妨害するというようなことも、心の問題ですから、人間が変わればそういったこともなくなるだろう、こう思うのですけれども、なかなかそう簡単に、説教したり教育しただけでは直らない現象だと思います。
 そういう場合に、あれは、車検なりあるいは新車購入のときにはなかったのに、途中で改造してそういうものに変えていっているという動きがありますね。そういうことに協力するようなメーカー、業者も問題だと思うのですけれども、やはりこれも法律でもって規制するといったことがあればかなり効果が出るのでしょうか。それについて御見解をお伺いいたします。
○長江参考人 昭和三十年代の前半にタクシー強盗が非常にはやりましたときに、一斉にいわゆる防護さくはつくりました。その後、落ちついてからそれがなくなって、東京ではありますけれども。おっしゃるように、外国ではたくさんそれがあります。これは多分、そのときの治安状況その他で決まってくるものだと思います。
 例えば、ロンドンの古いオースチンのタクシーは、実はガラス窓があくようになっていまして、これも、客席のあれが直接運転席に伝わらないという点では非常にいいと思いますけれども、私は、別な意味でいうと、個人的に好き嫌いがあると思いますが、全くそういうものがなくてもいい社会があってほしいし、すべてのタクシーが全く運転席と隔離されたような状態だとか、あるいはフランスのように助手席に犬を乗せていて、何かあったらそれをやる、この対策も必要があるからできたんだと思いますが、ぜひ、できればない方がいいかな、こういうふうに思います。
 それから二番目の件ですが、車検にかかわらない乗り物というのが、軽自動車だとか、あるいはオートバイでいいますと、二百五十cc以下のオートバイ、五十ccの原付、こういうようなものがございます。これも、技術的には、ああいう大きな音を出さないように、マフラーといいますが、消音器を外せないようにしようじゃないかというふうなことがあったのですが、考えてみますと、その中に入っているしんになるところは腐食その他によって取りかえなければいけなくなるのですね。それを全く分解不可能にすると全部を取りかえなければいけない。そういう費用負担はどうするのかという話が実はございました。
 そういうことで、これも、先ほど来申し上げましたように、費用負担をだれがするのかということと、トータルで見たときに果たしてそれが非常に有益な方法であるかどうかという結論が出ないままに今日来ております。技術的な話とは別に、むしろ使用者側の負担だとか利便性ということが非常に大きなあれになっていると思います。
 おっしゃるように、シャコタンといいまして、背丈を短くして走るような車、絶対車検に通らないのですが、車検のときにはちゃんと通っていて、後でそれがもとへ変わる、こういうようなことをどうとめたらいいのかというようなことで、技術的な話とは別な側面での意味合いが非常に強いのかなと。技術的には、何かあればそれはできると思いますが、大変費用がかかるとか、一種のむだなことをやるというふうに見られるような手だてをとらなきゃいけないということもあると思います。
○塩田委員 ありがとうございました。
 終わります。
○横路委員長 松本善明君。
○松本(善)委員 三人の参考人、御苦労さまでございます。大変貴重な御意見を聞かせていただきましてありがとうございました。
 最初に、井手参考人から伺いたいのでありますが、井手参考人の御提案は、ほかのお二人の参考人の御意見も含めましてよく研究、検討させていただきたいと思いますが、お聞きしたいのは、やはり肉親などを交通事故で死傷させられた場合に、その精神的な打撃というのは非常に深刻なものだと思います。それを直接体験していらっしゃるわけですが、精神的にも経済的にも非常に大きな負担がかかって、PTSD、心的外傷後ストレス障害で苦しむ遺族も非常に多いと思います。
 遺族の方の生活実態についてどういうふうに把握をされているか、お聞かせいただきたいと思います。
○井手参考人 PTSDというのは、専門家によりますと、その人の素質とか要因とか、その人自体の持っているものも影響するので、交通事故に遭った人はみんなPTSDになったり、ASDといいますか、急性のものになるわけではないわけですね。ですけれども、現在、例えば裁判している中で一番PTSDの問題で多いのは、交通事故なわけなんですね。それは、何の予測もなく突然起こってくる災害なものですから、やはりPTSDというのは非常に多いんだと思うんです。
 ですけれども、アメリカとかヨーロッパでは非常に研究がされておりますけれども、まだ日本にはそういう研究機関が非常に少ないということがございますので、やはりその研究機関をつくることと、あと、PTSDにかかった方々の治療をする施設を早くつくっていただきたいというふうに思っております。
 私自身のことを言いますと、私も実はPTSDにかかりまして、睡眠障害といいますか、お酒を飲まないと眠れなくなりまして、浴びるほど飲みました。結局、肝障害を起こしまして、今ではお酒を飲めなくなってしまいましたけれども、やはりこれは悲惨な問題
であります。
 また、経済的な問題でも、やはり非常に困っている方が多いわけですから、そういう面で国家的にひとつ御配慮をお願いしたいと思っております。
○松本(善)委員 お答えにも関係をするわけでありますが、そういう遺族の方の精神的、経済的な非常な負担、それに対する公的な側、国や地方自治体の側からの精神的なサポートとか財政的な支援というものがやはり必要なんだと、今の御要望もありましたけれども、それ全体をどういうふうにお考えになって、どういうことをしてほしいというふうに思っていらっしゃるか、お聞かせいただきたいと思います。
○井手参考人 全国では、やはりPTSDとかASDにかかっている人は非常に多いと思うんですけれども、それに対応できるのは大都市しかないわけなので、やはりもっと日本全国にそういうふうな大切な施設をつくっていただいたり、あるいはそういう研究者を養成していただきたいと思っております。まだ、現在のところは非常に不足しているのではないかなと思っております。
○松本(善)委員 財政的な支援についてはどうですか。不満は特にありませんか。
○井手参考人 今のところは公的なものはありませんので、私たちの会の場合には、会費を集めて、いわゆる被害者の被害者による被害者のための機関になっているわけなんですけれども、交通事故というのはもう全国、国民全体の問題ですから、国がやはり少し支援の手を差し伸べていただきたいなと思っております。
○松本(善)委員 私ども、犯罪になるようなものもありますから、犯罪の被害者の人権という問題について日本は非常におくれているので、やはりもっともっとやっていこうというふうに思います。きょうの御意見も参考にしてやっていきたいというふうに思います。
 福井参考人に伺いたいと思います。
 障害者の欠格条項の見直しは長年の課題だったので、本当に、先ほどの御意見でもありましたけれども、非常に歓迎、喜んでいらっしゃる、よくわかります。
 主要国では、障害に基づく差別を禁止するなどの法律が既に制定されていると聞いておりますが、自動車運転免許の欠格条項など、主要国の仕組みはどういうふうになっているか、外国と比べて日本がどういうところにあるのか、御存じだったら伺わせていただきたいと思います。
○福井参考人 そのことにつきましては、私どもてんかん協会も参加しております日本障害者協議会、JDの政策委員長でいらっしゃる佐藤久夫先生とか、先ほどちょっと御質問がありましてお話ししました日本てんかん学会の中の特別委員会ですとか、諸外国の事情を調査、発表していらっしゃいますので、それでは、ちょっとその一端を私どもの知っている範囲で申し上げたいと思います。
 きょうお配りしております私どもの見解にもちょっと触れておりますが、てんかんを持つ者を運転の欠格としている国は、実は十三カ国でございます。台湾とかシンガポールとか、そういうのみでございます。
 それから、主要国ということですが、まずアメリカなんですけれども、これは佐藤先生が調査をなさったものなんですけれども、一九九八年のアメリカのてんかん協会のまとめによりますと、発作消失期間について、五十二州全部の調査でございますが、特に期間を設けていないというのは八州、それから六カ月発作がなければ免許を出す州が二十州ということになっておりまして、かなり具体的な数字が出ております。それと、イギリスでは、起床中のてんかん発作が過去十二カ月以内にあった人は免許が取れないという規定がありまして、これは他のEU諸国でも同じ基準になっているということでございます。たくさんのいろいろな記録が出ておりますので、ぜひ、御要望でしたら提出もさせていただきたいと思います。
 日本はどういう位置にあるのかということなんですけれども、警察庁が昨年の十二月にいわば試案を提出しましたときに、てんかん学会の先生がそれを英文にいたしまして、全世界の各諸国のてんかん学会に送ったわけですね。そうしましたら、暮れからお正月、日本では最も忙しいというか、そういうことが休憩してしまう時期であるにもかかわらず、実は諸外国からたくさんの意見が寄せられているんです。私たちてんかん協会も、まあこんな海外の反響でということで、私たち自身の問題なのに、もっと頑張らなければいけないということで、この海外からの意見というのに非常に励まされております。これもぜひ、御要望でしたら提出をさせていただきたいと思うのですが。
 日本についてどうかということで、カナダのモントリオールのベンジャミン・ジフキンという精神科のお医者様がこんなふうにおっしゃっていますので、ちょっと早口ですけれども、紹介させていただきます。
 この条文は先進国におけるてんかんと自動車運転に関するものとしてもっとも厳しい規制であり、先進国における趨勢に反するものです。
  公衆施策は可能なかぎり根拠にもとづいてなされるべきであります。他の国の研究や経験は、このような厳しい規制は予防可能な事故から社会を守るのに決して有効ではなく、個人や社会に有害でありうることが知られています。試案はその意図するものを得られないだけでなく、意図せざるリスクをさらに付加することになるでしょう。それはまた高度の文明国日本に対して、恥辱と悪評をもたらすことになるでしょう。
  日本の研究者や医師はてんかんの基礎研究や臨床研究の業績において世界的な名声を得ているのです。この条文は即座に削除されるべきでありましょう。
というような、私たちにとっては非常にどきっとするような意見を寄せてくだすっていますので、このことからも、こういうことに対する日本の位置はどういうものかということは御推察いただけるかと思います。
 そして、ごく最近の例では、またこれはてんかん学会の先生たちが提案をしたものなんですけれども、非常に具体的な提案をしておりますし、昨年の十一月十三日にインドでアジア・オセアニアてんかん学会というのが開催されております。そこでも非常に具体的な提案や分析がされておりますので、十分申し上げなくて恐縮でございますが、以上のようなことでお許しいただいてよろしいでしょうか。よろしくお願いします。
○松本(善)委員 福井参考人にもう一点伺いますが、今回の道交法改正案では、障害者の欠格条項の見直しは一定改善されている面もあり、歓迎もされていると思いますが、「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気」という表現で、事実上てんかんなどの病名や疾患を特定するものとなっている点は問題だと私どもも思っております。これは、中央障害者施策推進協議会の答申にある、障害者の持つ可能性を最大限に生かすよう配慮するべきであるという基本方針からも問題があると思いますが、これらの点についてどういうふうにしたらいいと思うか、御意見を伺わせていただきたいと思います。
○福井参考人 大変核心に触れた御質問をいただきましてありがとうございます。
 前段の意見の陳述のときにも申し上げたかと思いますけれども、ちょっと言葉が足りませんでしたでしょうか、今回のことはやはり大きく私たちに光を与えるもので、私どもは本当に前進だというふうに思っているのです。ところが、てんかんの文字は除かれたけれども、ほかの障害、疾病もかかわってくるものの、そういう記述が入れられたことは、やはり非常に遺憾だと思っております。
 どういうふうにすればということなんですけれども、先ほど申し上げましたように、五つの団体で出しておりますいわば要望なんですけれども、つまり、障害列記の箇所を、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある症状として政令で定めるものというふうに変えていただいて、もちろん政令の中には、それからまたそれに伴う判定基準ですとかガイドラインとか、そういうところには細かく記載していただいて結構だと思うのです。
 ただ、大きな世界的な流れの中で、日本がそういうはっきりと症状、障害とわかるものを入れるということはいかがなものかといいますか、私たちのこの趣旨には反しているということで、その点が一番問題だというふうに申し上げているわけなんですね。国際的な障害者のいろいろな趨勢の中でぜひその辺を御理解賜って、先日の内閣委員会もお聞きしておりましたけれども、両者が歩み寄った上での工夫とか創意とかということで、そのことも気持ちとしてはすごくわかるのですけれども、私はやはり、なぜ国際障害者年が完全参加、平等をうたったのか、なぜ日本が四十年も続いてきたこの運転免許の欠格条項を今大きく見直そうとしているのか。
 きょうは交通事故被害者の会の方も御一緒でございますが、私どもてんかん協会、それからかかわります障害者団体は、この機会に私たちの思いを訴えて御理解を賜りたいというふうに思っておりまして、できることならばそういうことも今回の法案の中にしっかりと位置づけていただきたいと、重ねてお願いをするわけでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○松本(善)委員 この法案についての御要望に沿うような修正案を、民主党、社民党と一緒に日本共産党も出そうというふうに考えております。自由党も、どうされるか、参加されるかもしれませんが、与党にも話をして、やはりできるだけ全会一致で修正のできるように、与党の皆さんにも御理解を賜りたいというふうに思っております。
 最後に長江参考人に伺いたいと思うのですが、参考人は交通安全教育指導をされているというふうに伺いましたが、二点お伺いします。
 近年、交通事故が再び増加をして新たな交通戦争とも言われるようになっておりますが、この増加傾向をどう見ておられるかということが一つ。もう一つは、高齢者の事故が増加していることは御存じのとおりでありますが、高齢者の運転と事故についてどういうふうに見ていらっしゃるか、伺いたいというふうに思います。
○長江参考人 交通事故をどういうふうに見るかということが一つの問題だと思います。
 過去、昭和四十五年のときに死者数が一万六千幾らと非常にピークになりました。あの辺のところを見ていただきますとおわかりいただけるのですが、死傷者数あるいは事故件数とそれから死者数の経年変化を見ますと、事故件数が先行しているのですね。どんどんふえてくると、後におくれて死者数がふえてきているのです。そして、昭和四十六年からずっと対策を打っていきましたが、その前にずっと減っているのですね。一体これは何だろうかということが研究者の中で議論になりました。
 ところが、今回は、死者数は減っているけれども事故件数、死傷者数はふえている。これをどういうふうに解釈するか。多分御案内だと思いますけれども、今年度の交通白書にもその一部が書いてあります。ですから、要は死者数が減ればいいのだということだけではだめなので、その要因になる事故そのものをまず減らしていくということ。あるいは、特に効果的な話であれば、どういう事故が多いか、そういうことを重点的に啓蒙し、そして取り締まりもあると思いますが、そういう形で一人一人のドライバーの方に心していただかないとこれはまずいのかなというふうに第一点は考えております。
 それから、第二点の件につきましては、よく言われますのが、交通社会における高齢化というのは、実は、海外が先行しているといっていますけれども、これだけの量のいわゆる自家用車を運転する人口でいいますと、日本が最先端なんですね。したがって、高齢化社会という言葉は私は非常に嫌いで、活力ある長寿社会というふうに先ほど申し上げましたが、それに持っていくためには、運転というのも外せないことだろう。
 しかし、では現実に今ふえている事故というのは一体何によってふえているのかという、まずはそれの調査とか研究というものがなければ、対策が実は立たないのだろうと思うのです。従来の対策は、危ないからやめておきなさいということでしたが、それではいかないとすれば、どういう事故がどんなことで発生しているかということを、まず原因を突きとめて、そしてそれに対してどうすればいいかという対策を立てるのが本来じゃないかと思います。これは多分、海外のいろいろな文献をあさっても、日本に当てはまるいい具体的な対策というのは、私自身は今まで調べていましたけれども、ないように思います。
 以上でございます。
○松本(善)委員 三人の参考人、どうもありがとうございました。
 終わります。
○横路委員長 北川れん子さん。
○北川委員 社民党・市民連合の北川れん子といいます。
 本日は、三人の参考人の皆様、貴重なお時間をいただきまして本当にありがとうございます。一応私で最後になりますので、よろしくお願いいたします。
 まず、井手参考人にお伺いしたいのですが、本当に具体的な提案を御提言いただき、何度も、古い法律体系のもとで今の時代に合わないのではないかというお話がありましたが、皆様の遺族の会の方では、具体的にこういう法案という形で法案をつくる試みをされているのかどうか、その辺をちょっとお伺いしたいのですが。
○井手参考人 法案をつくるのは国会議員の方ですので、私たちは法案をつくる考えはないのですね。ないというか、つくってもらいたいと思っているだけなんです。
 ただ、ちょっと御質問から外れるかもしれませんけれども、欠格事項の問題で、てんかんを外すというのはわかるんですけれども、安全をどうして確保するのかというのがきょうの議論の中ではひとつ見えてこないのです。どういうふうにして安全が確保されるのか、てんかんを廃止してくれというのはわかるんだけれども、では、どういうふうにしたらてんかんの人が事故を起こしたときに責任をとっていただけるのかということがいま一つはっきりしない。だから、責任問題というか、それを明確にしていただきたいというふうに思っているのですね。質問とちょっと外れましたけれども。
○北川委員 問題点の指摘として、対立関係におありになるということで言われたのではないと思います。
 私が、法案を試みられているのでしょうかとお伺いしたのは、今いろいろな段階で、ここがもちろん立法で考えるところではあるんですけれども、いろいろな方々のいろいろな提案ということを受けて具体的に考えていくということが時代性に合うというふうに思ったものですから。被害者の方々が分断されているというか、被害に遭われた状況が皆さん違うものですから、過去四十年間黙ってこられた方が多くて、ここ十年ぐらい井手さんたちのような動きの渦が、逆に言えば、私たち本当は事故に遭うかもしれないと毎日不安を感じている者に対しての警鐘をしてくださっていると思っています。ですから、そういう問題も含めて、まず、立法機関ではありますが、皆さんとともに考える、今何が必要な法律かということも具体的に踏み込んで、手を携えるところがあればというふうに思いま
す。
 それで、今、欠格条項を外す、そこに文言としてのてんかんという症状例を外すということに関して、何か不安な面がまだ払拭されないというふうにおっしゃっているのですが、では、福井さんの方にお伺いいたします。先ほどからこの間の皆様方の取り組みなどもお伺いしているのですが、機会平等ということだろうと思うのですね。
 私自身は免許を持っていない者なんですよ。今免許を持っていないというと、どこか悪いところあるのと言われるぐらい、それと、どちらかといえば社会的には不利なわけですね。仕事につくにも、資格の条項にそこがないと、私四十七なんですが、あなた、そんなおばさん要らないよという感じになりやすいということもあるんですが、ハンドルを握るということに関しての抵抗感を自分の中で払拭できなかったということがあるのです。
 先ほどからお伺いしていると、井手さんたちのように現実に被害に遭われた方、亡くなられた方を身近にしている場合に、普通の方の方が事故を起こす確率が高いんだろうと思うのですが、その辺で福井さんたちは、安全に対しても、セーフティーネットが二重にも三重にも必要、その場合には経済的保障が必要だという御提案だろうと思うのですが、もし具体的な面で今お持ちの試案がありましたら御提示していただけますでしょうか。

○福井参考人 いろいろと細部にわたった御質問で、ありがとうございます。
 先ほど経済的なことと申し上げましたのは、新たな自動車のいろいろな整備があるのでそういうことはいかがなものかという御質問がありましたので、そういういろいろなことも購入したいけれども、それがまた患者の負担になるのは大変なので、ぜひ公的な援助をということで申し上げたまででございます。
 実は、きょうは非常に限られておりますのでるる申し上げられなかったのですけれども、私どもは、警察庁に伺いましたときも、それからてんかん学会のいろいろな先生方のいろいろな対案についても、御一緒に運動を進めております。それで、今いろいろとお話がありました、ではどうやっててんかんという文字を外してもらったり、いろいろと免許をもらえるようにする上での私たちの具体的なことについては、いろいろなところで述べております。
 実は、てんかんという病気は脳の慢性疾患ですが、非常に複雑なんですね。トータルで申し上げましたが、医学の進歩でもう七割、八割の人は治る時代に入っている。先ほどもお話がありましたけれども、繰り返し発作が起こるということが一つの特徴なんですけれども、寝ているときだけの発作ですとか、それから前兆があるというのも随分ありますね。ですから、前兆がある場合には運転をしなければいいわけでして、いろいろな事例があるのですけれども、てんかんという病名で不適格を規定するのではなくて、てんかんの状態像によって適格の可否を判断すべきだというふうに申し上げております。
 ですから、いろいろな政令、省令の中で、例えば、病的な状態にあるために運転の適性に疑念がある場合はみずから申告して専門医ないし官庁の指定する医師の適正な判定を受けるようにするとか、それから、自動車の安全な運転に支障を及ぼすような身体、精神の障害の運転適性判定に関する指針というようなものを運用細則で定めてくださいと、てんかん学会もこういうふうに言ってくださっていますし、細かいいろいろな対策も立ててくだすっていますので、私たちも、そういう先生方の医学的な積み重ね、これは非常に国際的にも誇るべきものだと実は思っておりまして、こういう先生方の医学的な積み重ねの中で、しっかりと一つ一つの事例について、患者の権利も保障しながら政令やガイドラインで詰めていきたいというふうに思っております。
 資料等御必要でしたら、また提出させていただきたいと思います。よろしくお願いします。
○北川委員 ありがとうございます。
 事故は遭ってみないとそのつらさやしんどさはわからないとよく言われますし、先ほどの井手参考人のお話にもありましたように、そういうガイドラインをどう持つかというあたりも、具体的に双方が話し合う場面が事前にあるということは大きな一場面だろうと思いますので、ぜひ私たちも交えて活用させていただきたいと思っております。
 それで、長江参考人にお伺いしたいのですが、長江参考人は技術者でもいらっしゃるということで、交通事故の現場への検証に立ち会われたことがおありなのかどうか。
 それと、きょうは人によっての要因を主に話される方が多かったわけですが、人ではなくて、車のどこかの不備とかモデルの不備とか、道路、信号、左折右折の問題等々、今科学的な論証も少しずつ日本でも検証されていますが、その辺の取り組みについてちょっとお伺いしたいのです。
○長江参考人 私は、直接交通事故が発生したその直後に行ったことはありません。ありませんが、裁判で鑑定を頼まれたりしたときに現場へ行ったこともありますし、資料でいろいろと検討したことはあります。
 それから、もう一つの御質問ですけれども、実は、人的要因以外に何があるかという話は、多く新聞をごらんいただいているとわかっていると思いますけれども、例えば今、クルーズコントロールといいまして、高速道路を百キロで走るとき、ぽっとボタンを押しますと、運転している方は全く何も操作しなくても百キロでずっと走る、こういうものがあります。それがあるものですから、それの仕組みによっては、例えばスピードを出していくためにアクセルを踏んで、ぱっと戻しても、先ほどのクルーズコントロールのワイヤというかひもがひっかかっちゃって戻らなくなって暴走したとか、そういうようなことは大体クレームという形で、旧運輸省のときにはそれが出ていますので、そういうようなものもあります。
 それから、道路の状況が悪いとか、あるいは変形交差点で事故が多い。この辺も、実は各自治体の方で協議会というのがございまして、交通に関する、警察だけでなくて、道路だとかいろいろな部門の人たちが集まって、そしてそこで、事故多発地点をどうやって解消するかというようなこと、最近は民間の方も入っています。それからもう一つは、ここの道路はこういうふうにした方がいいということをどこへ言っていけばいいのか、これもきちんと明確にしている市町村も実はございます。
 そんなことで、皆さんに関心を持ってもらうことが結果的に事故を減らしていくことになるという考え方が、だんだんに具体的に動き出しているのかなというふうに私は理解しております。
○北川委員 最近の車の技術というものの革新性というのを先ほどからもお伺いしていたのですが、逆に昔の車の方が、いじることが好きで、修理もしたり保全もしたり音の異常を敏感に感じ取ったりという、運転する側の車に対する愛着が持てたというのを言う方もあります。今のITに進み過ぎると、もうお手上げ、何かがあればとりあえずだれかに頼まないと直せないということで、ただ乗る人、乗せてくれる自動車という愛着関係のなさを指摘される方もあるのです。
 ちょっとそれとは視点が違うのですが、先ほどからのIC免許の問題で、長江参考人は、IC免許を有効に使えばいいのではないかというお立場だろうと思うのですが、今の技術で、IC免許の活用の仕方と、どういう情報を盛り込むことが可能、どこまで技術が革新しているかという点をお伺いしたいのです。
○長江参考人 数年前に、実は運転免許証のICカード化というプロジェクトがありまして、私はそこの中の一員でありました。そのときに実は提案したのは、今の免許証と同じ厚さの中でチップが入れられるということになりましたので、現在ではETCといいまして、高速道路の有料道路を通過するのにプリペイドカードをやっておけばいいというのがありましたが、もう今実験段階で進めていますけれども、そういうような運転に関するものは免許証一枚ですべてできるような形にしたらどうかなというふうなこともそこの中では議論されました。
 ですから、技術的にはいろいろなものが入れられる。あるいは、最近は、いわゆる記憶回路というのは物すごく小さくなりましたから、下手をしますと、運転免許証の中にそういうものを入れておけば一日の運転状態というのが記録できるということも不可能では
ないと思います。
 ですから、この辺はどんどん進んでいますからいいのですが、これまた先ほど申し上げていますように、技術者は、そういうことができるよ、できるよと言っているのですが、いざ使おうとなると、プライバシーの話があるからだめだとか、読み取る機械はみんなが持てるようなものでは困るとか、いろいろな問題がありますので、技術的に可能であってもそれが実用的に問題がないかという御検討をひとつしていただければ、技術的には現在は可能な範囲がかなり広がっていると思います。
○北川委員 一応、今回の道交法の改正の中では一部ICカードの面が入れられておりまして、余りこれが表に出ていない形なんですけれども、先生たちの諮問機関の中で、プライバシーとの関係、実用に際しての問題点は、集約で、どういうところが最終的にポイントとしては話されたのでしょうか。
○長江参考人 実は、先ほど言いましたように、技術的にはこういうことも可能だ、ああいうことも可能だというふうに申し上げましたが、メンバーの中に法律学者の方がいらっしゃいまして、最終的には、プライバシーの問題、あるいは情報管理をどういうふうにするのか、機密漏えいというようなことがあってはならないということで、これはもう数年前なんですが、当時、それで一応できるということはわかったのですが、実行に移すという話はなくなって、立ち消えになりました。

○北川委員 それがまた一部浮上して、顔面認識の分が入ってきまして、あと余白の免許証になるという提案が今回あるのです。
 それで、その点が、結局は免許証を持っている本人が何が集積されてあるかというのを、読み取る機械を家に置かないとわからないわけで、では、そういう免許証に集積された情報をだれが読み取るのかというのが最もポイントだろうと思うのですね。
 それで、まず顔面認識からということだろうと思うのですが、顔面認識でも幾ばくかの問題点はあるのではないかという点を私などは思うのですが、先生はそれはいかがかということと、今はこれがさらに進んで、先ほども言いましたように、免許証というのはもう当たり前にだれでもが持っている。逆に言えば、ゼロ免許者に対しての社会身分的なものとして付与するとか、例えば自転車の免許ということも出てきていますよね。そういう世の中の多少の流れに対して、先生はどういうお考えを持っていらっしゃるのですか。
○長江参考人 免許証の中に入れるものというのは、多分それは規定されているのだと思いますが、私が伺っている範囲では、現在ある免許証に記載されているものを入れる。では、なぜわざわざそれを入れるのかというと、実はそれは偽造を防止するということが一つあるんだというふうに聞いております。
 それからもう一つは、例えばスピード違反をして切符が切られるときに、一々免許証番号から全部書き写すというと非常に時間がかかる。それを読み取る機械があれば瞬時にして読み取れる。では、その読み取る機械というのは、年齢だとか住所だとか本籍だとかというのがわかってしまいますので、どうするのかというと、これは特別な細工をして、今でいいますと警察だけにしかそれを読み取ることができないもの、そういう機械を使うんだ、こういうふうな話を伺っております。
 ですから、個人が勝手に、これは前のときにそうだったのですが、例えば先ほど申し上げたプリペイドカードも、それにかえさせようとすると、預金がなくなれば出したり入れたりしなければならない、そういうようなことを免許証の中で書きかえるなんということは法律上できないんだという話があって、それは同じチップを別に入れたとしてもだめだということで、これは実現しないだろう、現行法上でだめだろうという結論が出たようです。
 ただ、今おっしゃったように、それでは何かというと、もしそのチップの中に入っているものを偽造されたならばわからないということだと思いますね。
 これも本当にいいか悪いかわかりませんが、最近セキュリティーが非常に発達してきまして、顔写真で照合するというのもあれば指紋で照合してやるというのもあります。この辺のセキュリティーの確保というのはいろいろなものがあるのだろうと思いますが、これも逆に言うと、指紋なんかとられると嫌だというようなことになれば、それは実現しないと思います。何かいわばコンピューターのハッカーのようなもので、大丈夫だというふうに対策を立てても入り込んでくるという追っかけっこをやっていますので、今回それをやったからといって万全だとは言えませんが、従来よりは免許証を持っている人にとっては利便性は非常に高まるのだろうというふうに私は考えております。
○北川委員 ありがとうございます。
 では、井手参考人のお話の中で、先ほど車の総量規制をする、そして車に頼らなくても生きていける社会を目指すというのも必要ではないかというお話があったのですが、井手参考人の陳述書の中にもあります、更新時の講習会がありますよね。この講習会が今は生きていない。生きていないけれども、義務づけられているから、とりあえず、今回五年に一回になりましたが、今まで三年に一回あったと。生きた講習会にしようというような具体的な試みといいますか、ここにも多少のことは書いていただいているのですが、具体的に生きた講習会というものをどういうふうにイメージされているか、お伺いしたいのですが。
○井手参考人 講習会につきましては、先ほども申し上げましたけれども、現在は視力の検査とあとはビデオを見るだけ。これでは講習する人は非常に精神的に負担なんですね。そうじゃなくて、本当に講習を受けてよかったと言われるようなカリキュラムをつくってもらいたいと思います。そのためには、例えば適性検査とかそういうものが実際行われておりますから、本当に実りある検査をしていただきたいと思っています。
 それから、ちょっと御質問じゃないのですけれども、ICカードを普及させるためには、やはり技術的なものだけではだめなので、経済的な優遇措置というかそういうものもICカードの中に使用する場合には組み入れないとなかなか普及しない。やはり、全国に普及させるためにはそういう優遇措置を必ずとっていただきたいというふうに思っております。
○北川委員 では、時間が来ましたので、きょうは本当にどうもありがとうございました。
○横路委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の皆さんには、貴重な御意見を長時間いただきまして、まことにありがとうございました。ただいま皆さんからいただきました御意見を踏まえて審議を進めてまいりたいと思っております。委員会を代表して心から御礼申し上げます。ありがとうございまし
た。
 次回は、来る二十五日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時五十一分散会

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