JD発第98−82号
1998年11月26日
総理府障害者施策推進本部
本部長 小 淵 恵 三 殿
日本障害者協議会
代表 調 一 興
障害を事由とする欠格条項に関する要望
日頃より、障害者施策の充実にご尽力を賜り、厚くお礼申しあげます。
本協議会では、国際障害者年(1981年)以降.障害のある人々の「完全参加と平等」の実現をめざして、各種法制度の改正や施策の改善運動を推進しております。その成果もあって、近年、障害者基本法の制定(1993年)やそれに引き続く障害者プランの策定(1995年)によって、わが国の障害者施策をめぐる展開は急速になってまいりました。
特に、その動きのひとつとして、現在貴本部を中心に「障害者に関する欠格条
項」の見直しが進められておりますが、本協議会では、かねてより障害のある人々の自立と社会参加を阻む大きな要因として、「欠格条項」の抜本的見直しを求めてきました。その立場から、この取り組みを高く評価し、今後の動向に注目しているところであります。
「欠格条項」の基本的な問題点は、障害を有しているという属性のみを理由と
して、職業選択や社会参加に制限を受けることが、憲法上規定されている「法の下の平等」や「職業選択自由」を侵害している点にあります。わが国の「障害者プラン」が基本方針とするノーマライゼーションの理念からいえば、単に「欠格条項」を撤廃するだけでなく、より積極的に社会参加ができるように、社会全体として一層環境の整備をすることが求められていると考えます。
よって、障害という属性を根拠とする、いかなる欠格条項も撤廃することを切に要望いたします。確かに、障害の状態によっては現在欠格と書れている資格を取得することは困難な場合があります。その場合でも、障害名・疾患名を明記せず、当該資格等に要求されている能力や技能による欠格基準に変更していただきたく、お願い申しあげます。障害名・疾患名による欠格基準は、その障害・疾患を持つすべての者が、当該資格等に必要な技能を有しないと解きれる恐れが高く、
障害者への偏見の拡大再生産をもたらす危険性があるからです。
また、欠格条項が規定されている資格等につきましても、そもそも欠格条項を
規定する必要がないものや、時代の変化に対応してしいないものがあると思われま
す。
これらの点から、障害者に関する欠格条項の見直しにあたって、次の点を強く要望いたします。
1.障害名・疾患名により包括的に欠格とする絶対欠格の廃止、およぴ相対欠格
についても可能な限り廃止とし、やむを得ず欠格条項を規定する場合でも、障
害名・疾患名を明記せず、当該資格等に要求されている能力や技能による欠格
基準とすること。
2.資格試験にともなう欠格条項の場合は、試験による必要な技能・知識の確認
ができるので廃止すること(運転免許や医師・薬剤師等の免許など)。
3.弊害を補助する器具の進歩や周囲の理解・援助によって、能力障害の克服が
可能な場合は、欠格とする必要がないので廃止すること(□がきけない方にと
ってのトーキングエイドなど)。
4.欠格条項を廃止しても、他の条項を適用することによって目的を達するもの
や、過去に適用した事例のないものは、廃止による社会的影響力がないので廃
止すること(バスの利用制限など).
5.障害の社会参加という観点から、本来欠格条項を設けるべきでない法律の
場合は廃止すること(公営住宅の利用制限など)。
6.「精神病者は、一般的に判断力、自制力に欠けるところがある」などといっ
た、誤解と偏見に基づく埋由による欠格条項は、国の障害者施策の基本理念と
も反するものであり、廃止すること(警備員など)。
7.諸外国において障害者の資格取得が認められている場合は、わが国において
も同様の対応をとること(スウェーデンにおける耳のきこえない人の運転免許
取得やアメリカにおけるてんかん患者の運転免許取得)。
8.現状で柔軟な運用がなされている絶対的欠格条項は、少なくとも現状に法文
を合わせること(精神障害者の運転免許や外国人の上陸など)。
9.他の同種の資格と比べて、過度な制限を課しているものは、最低限緩和する
こと(理学療法士・作業療法士と他の医療関連資格)。
さらに、今後の見直し作業を行われるにあたって、ぜひ留意していただきたい
点が2点あります。
第一は、「欠格条項」の見直しによって、実質的に障害者の社会参加を推進す
るものとしていただきたい点です。
たとえば、運転免許の欠格条項が廃止されても、資格試験の問題文がわかりにくい内容であれば、運転をする上での技能と知識があっても、知的障害のある人の免許取得は困難になります。また、耳の聞こえない人は現状では薬剤師になれませんが、仮に欠格条項が廃止されても、資格試験において耳の聞こえない人への手話通訳の保障がなければ、実質的に現状と変わりがないことになります。また、資格試験以前の養成教育課程への入学拒否などの問題も解決されねばなりません。こうした事態を招かないためには、単に「欠格条項」を撤廃・緩和するだけでなく、現在排除されている資格等で、どういう条件があれば取得可能なのか
という方策を、あわせてご検討いただきたく存じます。
第二に、なんらかの基準により欠格条項が残されたとしても、欠格とされるにあたっての聴聞や、欠格とされた者の異議申立てや権利回復規定を明記してしいた
だきたい点です。
たとえば.現行の法文に聴聞の規定があるもの(道路交通法第104条)でも、
精神病者、精神薄弱者、てんかん病者は、精神保健指定医以外の診断を受けた場合でなければ、聴聞は行われません。ましてやほとんどの欠格条項を規定した法文には、聴聞、異議申立て、権利回復規定が明文化されていません。近年、重視されてきている障害者の権利擁護の観点に立ち、ぜひともご良計いただきたくお願い申しあげます。
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