「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律試案」に対する意見
日 付 2001年2月27日
発 番 JD発第00−83号
発信者 日本障害者協議会 代表 調一興
宛 先 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部長
今田寛睦
貴職におかれましては、日頃より障害者の「完全参加と平等」の実現、とりわけ障害者プランの推進にご尽力されていることに心より敬意を表します。
本協議会は、あらゆる障害者の人権の確立ならびに自立と社会参加という視点に立ち、障害を理由とする欠格条項を全て廃止することを要求してまいりました。そのような立場からすると、今回の試案は相対的欠格を残しており、残念な思いを隠せないというのが正直なところです。
しかし、可能性や能力を問答無用のごとく否定する絶対的欠格の廃止が明言されており、障害者の就労や様々な資格取得の機会を大きく広げていくことが予想され、未来に期待をつなげていく内容となっています。そのような観点からいえば「歴史的な一歩」を、今踏み出そうとしているといえるのかもしれません。
ところで、本協議会は、この試案には多くの改善点が含まれていると認識するものです。
たとえば、栄養士免許、調理師免許などいくつかの制度については障害を理由とする欠格条項をすべて廃止すること、視覚・聴覚・音声言語に係る絶対欠格をやめること、法律上の表現に各障害の種類を含めないこと、各医薬関係職について統一的な制度とすること、欠格の判断に各「業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意志疎通を適切に行うこと」ができるかどうかと、(障害ではなく)能力を明確に位置づけていること、その個別具体的な判断では障害を補う手段や治療などを考慮すること、などです。また、「業務」と「業務の本質的部分」という表現を使い分けることによって、従来一部でいわれてきた、「すべての業務ができなければ免許は与えられない」という考え方を修正する道が開かれた点も重要だと考えます。しかしながら、なお改善すべき部分も多く残されており、下記に具体的な意見を提出いたします。
記
1.法律の目的の明確化と見直し規定を設けること
病気・障害の有無にかかわらずすべての国民は平等な社会参加の権利を持つこと、そしてこの改正が障害者基本法の「自立と社会参加」の理念に基づくものであることを明記する必要がある。
また、今後とも障害者施策をめぐる理念の発展、医療・補助機器をはじめとする科学技術や社会資源の進展、諸外国等での経験などをふまえて、必要に応じて見直すものであることを明記するべきである。
2.法律には「心身の障害により」という表現を含めないこと
医師等の業務を適正に行うことができない者については欠格とする必要性はあるが、ここに「心身の障害により」という修飾句をつける必要はない。その理由は、問題とされるのが「業務遂行能力の有無」であり、「心身の障害の有無」ではないからである。「心身の障害により」という表現の導入により、機械的な運用が生まれるおそれがあり、かつ、障害者に対する無理解・偏見を広げるおそれがある。
なお、「身体的又は精神的障害」にともない、「障害を補う手段」によってもなお、「業務の本質的部分」の遂行が困難である場合が考えられるので、その場合にのみその人を欠格とする旨の規定を省令等に設けるべきである。(障害に関連した「心身」という表現についても、誤解を招く恐れがあり、不適切であると考える。)
試案の法律の規定から「心身の障害により」という部分を削除し「業務を適正に行うことができない者」のみとすると対象があまりにも漠然としてしまうという懸念を持たれているらしいが、「業務を適正に行う上で必要となる能力の発揮が長期にわたって制限を受けている者」と置き換えた方が良いと考える。
3.「認知、判断及び意志疎通」と機能の障害についての関係の整理を
業務の本質的部分の遂行が可能かどうかは、「認知、判断及び意志疎通」の能力によって判断するとしたことは理解できる。また、これらの能力と視覚・聴覚・精神等の機能とは一致しないことから、「障害を補う手段」や「治療等」が考慮されるとするのも当然である。
しかしながら「業務の本質的部分の遂行に必要不可欠な身体又は精神の機能」として、医師免許等には「視覚、聴覚、音声若しくは言語又は精神の機能の障害」、薬剤師免許等には「視覚又は精神の機能の障害」、理学療法士等には「精神の機能の障害」が提案されている。この背後にあるのは、たとえば、聴覚は(医師等の場合には)意志疎通に必要不可欠という認識であろう。しかしそれは「手話、手話通訳その他の手段を用いることができるので、聴覚は意志疎通に必ずしも不可欠の機能ではない」という我々の理解と食い違う。すでに手話が国語の地位を得ている国もある。
医療、リハビリテーション、社会福祉をはじめとする障害者施策は「機能の障害」の治療とともに、「機能の障害」が残っても各種業務の遂行を可能にし、社会参加を進めてきたのであって、厚生労働省自身がその中心的役割を果たしてきたことを踏まえて、(聴覚と意志疎通の関係だけでなくより一般的に)考え方をさらに整理していただきたい。
4.不服審査の規定を設けること
試案では、免許を与えられなかった場合に、免許権者が求めに応じて意見を聞くこととしているが、当該申請者が「欠格に相当し免許を与えない」とする決定に対し、第三者機関に再評価を申し立てられるようにするようにすること。なお、この機関は統合的なものでよく、免許制度毎に設ける必要は必ずしもない。
5.障害を補い軽減する手段や治療の効果判定を柔軟に
試案では、当該申請者が「現に」利用している手段や「現に」受けている治療のみを考慮するとしている。しかしながら、その手段が非常に高価であるために当該申請者が現に日常的には利用していないが、使うことができれば確実に認知能力を高めることができるような機器もある(高性能の拡大読書機など)ことを考慮すべきである。
この文書に対する厚生労働省からの返答のページへ
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