平成14 年1月16日

警察庁交通局  
  交通企画課 法令係 様

精神科七者懇談会

                          国立精神療養所院長協議会
                                                           会長  白倉克之
                        精神医学講座担当者会議
                                               代表世話人 山内俊
                       全国自治体病院協議会
                                                  会長  小山田 惠
                     日本精神科病院協会
                                                   会長   仙波恒雄
                         日本精神神経科診療所協会
                                                  会長   三浦勇夫
                   日本精神神経学会
                                                理事長   佐藤光源
                       日本総合病院精神医学会
                                                理事長   黒澤 尚

「道路交通法施行令の一部を改正する政令試案等」に関する見解と要望


警察庁におきましては、日頃、交通事故防止のためにご尽力いただき敬意を表しま す。
さて、先般、道路交通法が改正されました。それに伴い施行令と施行規則の改正作業 が進められており、平成13年12月には警察庁交通局から「道路交通法施行令の一部 を改正する政令試案等」が公表されました。
この試案等につきまして精神科七者懇談会としての見解を以下に表明します。
ここでは当懇談会がもっとも重要と考える精神障害に関する事項に限って見解を述 べますが、この見解が政令等に反映されるよう強く要望いたします。


1. 「病気等に関連した運用基準」は、障害者の移動を含む生活権を最大限に 尊重するという基本認識に立って定めることし、その施行に際して公安委員会等関 係諸機関に対してその基本認識を周知徹底すること。

この試案は、運転に支障を来す可能性がある疾患や障害を列挙し、それらを有す る人々の運転免許取得を制限することを前提として、例外的に障害や疾患が軽微な 場合だけ免許の取得や更新を認めるという考え方に基づいている。
しかし、運転に支障があるのは、疾患や障害を持つ人の一部の人にすぎず、しか も疾患によっては一時的な現象にすぎない。したがって、運用基準は、「障害や疾患 を持っている人も一市民として自動車を運転し移動する権利を有する」ことを前提 に定められるべきである。また、その施行に際しては「この基準の運用に当たって は、免許の拒否・取消等にのみ着目するのではなく、障害や疾患を持つ人が安全に 運転でき移動できる諸条件を整えるように努めること」という通知を公安委員会等 関係諸機関に行う必要がある。 
このことは諸外国のように「障害者差別禁止法」を有しない我が国においては特 に重要である。


2. 「病気等ごとの具体的な運用基準」には、「精神分裂病」や「そううつ病」 を挙げての基準を定めないこと。

特定の疾患を挙げて免許の拒否等を行う基準を定めることは、特に精神障害において は、当該疾患を有するすべての人々への偏見を助長し、その移動に関する生活のみな らず、生活全般に影響を及ぼす可能性がある。
試案では「精神分裂病」や「そううつ病」を挙げて運用基準を定めることとしている が、自動車運転に支障をもたらすのはそれらの疾患のごく例外的で一時的な症状にす ぎない。また、治療やリハビリテーションの進歩等により、精神疾患は従来よりも比 較的短期に回復し、社会参加が可能となった。このようなことから、運転制限は疾患 によるのではなく、その状態によるべきである。また、その処分は回復を前提とした 保留・停止に留めるべきであり、拒否や取り消し処分を行うべきではない。
したがって、運用基準では、精神分裂病関係、そううつ病の項目を削除し、あらたに 「急性精神病状態」という項目を立て、以下のような規定とすべきである。

「急性精神病状態」
(1) 急性精神病状態にある人が、その症状により交通事故を起こした場合は、主 治医または公安委員会が指定する医師が、その症状が消失し、運転に支障が ない状態までに回復したと認めるまで運転免許を停止する。6月以内に回復 しない場合は、6月ごとに停止期間の延長ができるものとする。
(2) (1)以外であっても、明らかに急性精神病状態にあり、主治医または公安委 員会が指定する医師が運転に支障があると認めた場合は、最大6月間の運転 免許の保留または停止を行う。主治医または公安委員会の医師が運転に支障 がない程度に回復したと認めた場合には停止期間を短縮できるものとする が、6月を経過してもなお病状が回復しない場合には停止期間の延長を行う ことができる。


3. 再発予測診断に基いた処分や命令は行わないこと。

試案では、「免許証の有効期間中」あるいは「6月以内」に、「症状が再発するおそ れがないこと」を医師に診断させ、その診断に基づいて免許の保留・停止・拒否・取 消処分の決定、あるいは臨時適性検査(又は主治医診断書の提出)命令を行うこ ととしている。
しかし、次のような理由から、将来の再発予測を処分の条件とすることは行うべきで ない。
(1)一般に精神疾患の再発の可能性、とくにその時期を確実に予測することは不
可能である。
(2)再発すると予測して再発しなかった場合には当事者の生活権の著しい
侵害をもたらす。
(3)主治医が、自動車免許取得制限のために再発可能性を記した診断
書を発行することは、主治医と患者の信頼関係を損ない治療継続を困難にする可能性 ある。


4. 病気などを原因としてやむを得ず運転免許の停止処分等を行う場合には、 一律にすべての運転を禁止するのではなく、障害の質、程度あるいは生活背景に応 じて停止処分の内容を弾力的に決められるようにすること。そのためには「運転制限 に関する諮問委員会(仮称)」の設置が必要である。

病気などを原因としてやむを得ず運転免許の停止処分等を行う場合には、一律にすべ ての運転を禁止するのではなく、運転目的(自家用、人員輸送業務、運送業務な ど)、運転道路種と運転地域、運転時間帯、服薬遵守など、その運転に支障を来す障 害の質と程度に応じて停止処分の内容を弾力的に決められるようにする。そのために は、障害者団体代表や医療専門家が加わった「障害にかかわる運転制限に関する諮問 委員会(仮称)」を設置し、公安委員会の決定を保佐するシステムが必要である。
このような配慮を行うことによって、日頃から制限されがちな障害者の移動制限の拡 大を最小限にくい止めることができる。


5. 免許申請時や免許更新時の病状等申告制度の導入には慎重であるべきこと。

試案では、免許申請書又は更新申請書に、具体的な病名等の記載は求めないが、
「病気等ごとの具体的な運用基準」に該当する症状等を有しているかどうかを把握す るために4項目の設問に回答しなければならないとしている。この申請書に精神疾患 を特定した回答欄を設けなかったことは高く評価できる。
しかし、自己に不利な情報を申告しなければならない制度の導入によって、疾患や障 害を持つ人にあらたな負担をかけ、ひいては必要な専門的な医療から遠ざけてしまう 可能性がある。特に罰則規定を設けてまで申告を義務づけることは望ましくない。

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